農的暮らしのデザイン
コンテナ菜園で輪作と育土
コンテナ菜園のすすめ
庭のない集合住宅の方でも野菜栽培を楽しめます。コンテナ栽培と言われる容器栽培です。でも収穫後に熱湯や太陽熱で土を消毒してから次の作物を栽培するやり方法が、これまで推奨され、その手間から敬遠する方もおられます。無難な方法だと思いますが、これだと病原菌や害虫だけでなく有用微生物も死滅します。そこで私は別の方法を考えました。熱消毒をせず、生ゴミ堆肥などで有用微生物を増やし、輪作し、コンテナの中で育土をしていく方法です。
私は長年この方法で熱消毒をせずに、同じ土をプランターに入れた状態でコンテナ栽培を続けてきました。コンテナ菜園のスタートは1997年〜2000年に住んでいた高槻市の公団集合住宅5階のバルコニーでした。園芸土と大型プランターを購入し、生ゴミ堆肥もバルコニーで作り始めました。その後借家住まいや、転居で一時的に中断したものの、2002年〜2019年の17年間居住した南丹市美山町のアースガーデンで、地植えの菜園に加えてコンテナ菜園もずっと続け、現在の自宅でも続けています。
熱消毒はバルコニーガーデン時代からせず、同じ野菜を同じプランターで続けて作らない心がけもしていました。でもよりきちんとした輪作を始めたのは美山町に転居してからでした。化学合成農薬と化学肥料を使わなくても、大きなトラブルなしに収穫してきました。美山町の冬はたいてい雪で畑が覆われ、野菜収穫が困難になっていましたが、我が家では菜園が30~40cmの雪で覆われていても、軒下のプランターから冬野菜が収穫できました。写真1 は、南側の軒下に置かれた2018年12月半ばのプランターの様子です。下に置かれているのが輪作用大型プランターです。(上に置かれているのは輪作体系に入れていない小さなプランターとミントの鉢で、窓を開けて手を伸ばせばネギやレタスが収穫できました。)この時期の雪はまだ少量で、本格的な降雪はたいてい12月末からでした。
以下はプランター輪作のポイントです。
1) 大型プランターを最低4つ用意し、1〜4の番号を付けて輪作する。
2) できればコンパニオン・プランツも植える
3) 良質の堆肥を使う
これからさらに詳しく説明していきます。
大型プランターのサイズ
まずプランターのサイズを選びます。大型プランターと言っても様々なサイズがあります。大きい方がたくさん植えられますが、サイズによるプラス面マイナス面があるので、よく考えて選んでください。例としてトマトを植える場合を考えてみましょう。私の輪作用プランターは、縦30cm x 横50cm x高さ30cmくらいです。ひとつのプランターにトマト2本か、トマト1本とコンパニオン・プラントのバジル2〜3本を植えてきました。(写真2 は、加熱調理専用のサンマルツァーノという中型トマト2本だけのプランター)
バジルの葉をサラダのトッピングや、トマトジュースに入れて香りを楽しむ程度なら、少量で良いのですが、ジェノベーゼソースを作りたければもっとたくさん必要です。プランターを特大サイズや超特大サイズにすれば、トマトとそこそこの量のバジルが一緒に育てやすいです。
ただサイズが大きいと逆に不自由なこともあります。例えば、春に日当たりの良い場所に置いていたサラダ菜やナスタチウムのプランターを、真夏に強い日差しを避けるために半日陰の場所に移したい時があります。そんな時、特大や超特大だと重たくて、移動がしにくいのです。
写真3 は12月始めのプランターで、コマツナ、レタスに加えて根菜類のコカブ、ニンジンが育っています。ただし大根やジャガイモを作りたければ、もっと深いプランターが必要です。加えて品種も大根なら例えば源助大根など、あまり長く伸びないものが良いでしょう。
写真4 は、5月の私のプランターです。私はほぼ同じサイズのプランター10個に番号をつけて、5年単位の輪作をしてきましたが、そのうちの4つです。
コンパニオン・プランツ
上記サイズの私のプランターは大型とは言え、特大や超特大ではないので、コンパニオン・プランツが植えにくく、1種類だけのことが多いです。ただしサラダ用野菜は予めアブラナ科、キク科、セリ科などがブレンドされたタネを使うので、写真5 のように混植になります。一方、多めに栽培したい野菜もあります。写真6 はノラボウナのみのプランターですが、一度に全てを収穫したら8人分のお浸しができました。
堆肥(コンポスト)
養分がバランスよく含まれている自家製の生ゴミ堆肥をお勧めします。できれば生ゴミを餌としたミミズコンポストが理想的です。なお地植えの畑で未熟堆肥をうまく使いこなせる方でも、コンテナ栽培には完熟堆肥が無難です。加えて、籾殻燻炭や腐葉土を少量加えることをお勧めします。
牛糞堆肥や落ち葉堆肥(=腐葉土)はホームセンターでも購入できますが、生ゴミ堆肥は市販されていないので、自分で作ります。集合住宅バルコニーでのコンテナ栽培では、小規模な堆肥つくりが適しています。例えば段ボールコンポスト、土のう堆肥、バッグコンポスト、パルミスタなどです。生ゴミ用のミミズコンポストは、以前は手作りのものをワークショップでお教えしていましたが、キャノワームや金子みみずちゃんの家という商品が販売されています。以上くわしくは本稿最後のリンクをご覧ください。
用土
用土は知識があれば複数の材料を配合して自分で作れますが、市販の園芸土を使えば手っ取り早いです。最近の園芸土は、初期生育に必要な肥料を含むものがほとんどです。有機用土、として販売されていないものは、緩効性の化学肥料が入っています。
新しい園芸土には植物の初期生育に必要な肥料がすでに入っているので、初めて使う時はそのことを考慮する必要があります。堆肥にも肥料成分が含まれるので、プランター内が肥料過多にならないようにします。そのため、もし鶏糞やヌカが使われた養分豊かな生ゴミ堆肥を使うなら、当初は使う分量は少なくしたり、初期生育の様子を見てからその後に入れたりします。あるいは最初は生ゴミ堆肥よりも肥料成分の少ない腐葉土を使い、園芸土に含まれる肥料分が使われた後に、生ゴミ堆肥を入れる方法もあります。以上が、新しい園芸土を使う際の対応例です。なお園芸土購入の際は、下水汚泥がが入っていないものを選んでください。
輪作:作付け計画の例
以下は4つの大型プランターを、番号①〜④で表しています。輪作をわかりやすく説明するために4年間の作付け計画の単純な基本例を紹介します。
プランター① | プランター② | プランター③ | プランター④ | ||
1年目 | 春〜夏 | ナス科 | マメ科 | ウリ科 | シソ科 |
秋〜冬 | アブラナ科 | セリ科 | キク科 | ヒユ科 | |
2年目 | 春〜夏 | シソ科 | ナス科 | マメ科 | ウリ科 |
秋〜冬 | ヒユ科 | アブラナ科 | セリ科 | キク科 | |
3年目 | 春〜夏 | ウリ科 | シソ科 | ナス科 | マメ科 |
秋〜冬 | キク科 | ヒユ科 | アブラナ科 | セリ科 | |
4年目 | 春〜夏 | マメ科 | ウリ科 | シソ科 | ナス科 |
秋〜冬 | セリ科 | キク科 | ヒユ科 | アブラナ科 |
輪作にあたっては野菜の属する科の知識が必要なので、以下を参考にしてください。例えば、同じナス科でも1年目はトマト、2年目はピーマン、3年目はナスというふうに種類を変えていくと様々な野菜の栽培体験が増えていきます。なお各プランターの1年目〜4年目の縦の列は、異なる科のものがくるようにすれば、上記に入っていない科、例えばイネ科やアオイ科を入れることもできます。春〜夏に育つ作物か、秋〜冬用の作物か、どちらの時期でも育つ作物なのかは、野菜の育て方の本がたくさん出版されているので参照してください。
野菜栽培に慣れている方なら、秋〜冬と春〜夏の年2作に加えて、間作を入れてさらに多くのものを栽培することもできます。また輪作障害が出やすい野菜と出にくいものがあるので、上記の単純な基本例以外の応用もできます。
- マメ科 (インゲン、エンドウ)
- ナス科 (トマト、ピーマン、ナス)
- ウリ科 (キウリ、ニガウリ、マクワ)
- アブラナ科(ブロッコリー、カリフラワー、コマツナ、ミズナ、チンゲンサイ)
- キク科(レタス、サラダナ、キクナ)
- セリ科(ニンジン、ミツパ、パセリ)
- ヒガンバナ科(ネギ、ニンニク)
- ヒユ科(ホーレンソウ)
- シソ科(シソ、バジル)
- イネ科(トウモロコシ、ハトムギ)
- バラ科(イチゴ)
- アオイ科(オクラ、オカノリ)
- ヒユ科 (ホーレンソウ)
水やりと追肥
水やりは毎日ではなく、土の表面が乾いたらたっぷりとやるのが一般的原則です。大型プランターの場合は、土の表面がさらに乾いて容器と土の間にごくわずかに隙間ができた頃を、水やり適期と考える人もあります。
追肥は栽培期間の長い作物にはした方が良いかもしれませんが、あくまで植物の様子を見て判断します。なお米の研ぎ汁を活用すれば、水と肥料(ヌカ)が同時に供給されます。作物によっては多肥を好むものもありますが、育土が進むと土の肥持ちが良くなります。肥料は少なめにした方が環境にも健康にも望ましく、日もちの良い美味しい野菜ができます。
コンテナ菜園のリセット
作物を収穫したら、残渣を抜く場合もあるし地上部だけを刈り取る場合もあります。大型作物の場合は、主根が木質化しているので堆肥の微生物や菌類の力を借りても分解に手間取り、次の作物の生育を圧迫することがあります。そこで私は主根にそって縦に移植ゴテをいれて、細根を主根から切り離し有機物として土の中に残してから、主根を植物全体の茎と共に引き抜くことがよくあります。細根は土中で分解させますが、季節や地域の気候、土の状態により分解速度が異なります。
そして私のプランターサイズだと、堆肥を移植ゴテに約4杯と腐葉土や籾殻燻炭を少し入れます。不耕起でやってみたい方もおられると思いますが、我が家の庭ではブドウ栽培をしているため、ネキリムシ(=コガネムシの幼虫)の被害が発生しがちです。ですからリセットの時に土の中を調べて除去しなければなりません。ネキリムシは植物の根を食べて、フカフカの土にしてくれますが、除去しないと作物を枯らしてしまいます。地植えだと被害が軽く済む場合もありますが、プランター内では深刻化します。ですから我が家の栽培環境では、コンテナ菜園での不耕起栽培をしていません。
その他
以上の輪作用プランター4つはいずれも一年草を基本としてます。多年草を入れることも可能ですが、ややこしくなるので避ける人が多いです。そのかわりバルコニーガーデンでは、輪作用大型プランター以外に、多年草と一年草のハーブなどが寄植えできる大きめの容器があると便利です。多年草のミント類、レモンバーム、タイム、ニラや、1年草のパセリ、コリアンダーなどから複数を選んで植えておくと重宝します。またハンギングなどに昔からある品種の花を植えておくと、受粉昆虫、捕食昆虫がやってきます。ただ園芸品種の最近の花は、遺伝子組換え技術が使われている可能性があり、生態系への影響が不安です。ですから私はペチュニアでもパンジーでも新品種は避け、昔からある品種を選んでいます。加えてハチやアブが好むハーブや山野草の花も植えています。
ガーデンで地植え野菜を作りながら、プランターでも栽培する場合の注意です。移植ゴテはできれば、地植え用とプランター用を別々にした方が病原菌の感染などが避けやすいです。ただし、プランター栽培に、畑の土を少量入れる方が良いと考える方もおられます。状況により判断が異なるので、ご自身で考えてください。
コンテナ栽培はとても小さな農の営みです。農の世界は遠い昔より人間が自らの命を支えるために知恵を働かせ、試行錯誤を経て工夫を重ねてきたものです。その情報の集積が長い年月を経て今に到っています。コンテナ菜園を始めることが、農に関する”学びの第一歩”となるようにと願っています。まずは下にとりあえず参考になりそうな書籍やリンクを紹介していますので、ご活用ください。
本稿には菜園の基本技能とも言えるタネまき(播種)や、タネの取り方、保存方法、肥料の基本的な知識や、堆肥のいろいろな入れ方などの説明も省いています。これらに関しては以下のコンテナ栽培に関する書籍以外にも参考になるものがたくさんあるので、図書館などで活用なさってください。なお、もし以上に紹介した私のやり方で病気が発生したプランターがあれば、その時こそ熱消毒の出番です。やり方も調べればわかります。
コンテナ栽培という小さい農の世界で、いろいろ工夫して野菜作りと収穫を楽しまれ、豊かな暮らしにつながることを願っています。
参考図書、リンク
コンテナ栽培
1) マンガでわかる有機・無農薬コンテナ菜園の裏ワザ(西村和雄 著)
2) コンテナ・プランターでできる有機・無農薬かんたん野菜づくり(金子美登 監修)
3) コンテナでできるはじめての野菜づくり(東京都立園芸高等学校 監修)
4) コンパニオン・プランツ混植栽培 コンテナで創る家庭菜園(木嶋利男 著)
小規模な生ゴミ堆肥つくり
1) 段ボールコンポスト動画
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/kurashi/gomi/gomizero/damboru.files/Nakanokonnposutopanfu.pdf
2) ダンボールコンポストのセット、市販品
https://jun-namaken.shop-pro.jp/?pid=72900845
3) 新カドタ式 生ごみでカンタン土作り 角田幸代〈著)Gakken Mook
4) ひと目でわかる!図解「生ゴミ堆肥」ですてきに土づくり 角田幸代〈著)
5) バッグコンポスト + 独自のガーデンポットも販売
https://lfc-compost.jp/product
https://lfc-compost.jp/qanda
6) パルミスト〈生ゴミ処理剤)とコンポストバッグ
https://edgeband.com/product-category/gardening/namagomishoriki/parumisuto/
7) 金子みみずちゃんの家
http://www.kowas.co.jp/mimizu/start.html#03
8) キャノワーム
販売先が複数あるので、ネット検索してください。