訪問・滞在・参加レポート
オーロビル(Auroville, in south-east India, mostly in the State of Tamil Nadul)
今回はインドにある世界最大級のエコビレッジ、オーロビルの訪問レポートです。私は2017年11月にハイデラバッドで開催されたパーマカルチャー国際会議(IPCIndia)に参加した後、ここを訪問しました。数日間の滞在中、私は毎日動き回っていたのですが、出かけた場所の理解が深まったのは、帰国後に読んだ現地入手の文献や、HPを通じてでした。そのためこのレポート内容の多くは主に参考文献の(1) (2) (4) からと、(5) のHPからです。それらに私の旅の記録や思い出を交えています。日本では一部の人を除いて、このコミュニティのことは知られていません。このレポートでさらに多くの方に関心を持っていただけることを願っています。
オーロビルはインドの南東部にあります。空港のあるチェンナイから160km南にあり、ポンディシェリーの12km北です。私の滞在は5日間で、2つのゲストハウスに宿泊しました。ひとつはビジターセンターに近いAtithi Griha GH。
インドらしい宿で、部屋の中が使いやすく工夫されていました。もうひとつは中心部から離れた東の端で、ベンガル湾に臨むSamarpanam GHで、海辺のリゾートのような宿でした。
以上を拠点に毎日動き回っていました。この訪問レポートでは、まずオーロビルの歴史や理念、コミュニティのデザインなどについてお伝えし、次に私が訪問した場所を紹介します。
オーロビルの設立、理念、デザイン
オーロビルを創設したのはフランス人女性、ミラ・アルファッサ(1878~1973)でした。インドのスピリチュアルな思想家で政治家でもあったシュリ・オーロビンド(1872~1950)の後継者で、通称ザ・マザーと呼ばれています。マザーは人類調和の実験となる理想郷を1930年代より構想していました。1960年代の半ばには、ポンディシェリーのシュリ・オーロビンド・ソサエティがこの理想郷となる町づくりのスタートを提案し、後にその構想がインド政府に提示され、インド政府が支持して、構想はUNESCOに伝えられました。1966年にはUNESCO総会で、それは将来人類とって重要な推奨プロジェクトだとする決議が、満場一致で採択されました。
1968年に世界124カ国とインド全州からの代表者が集い、マザーがオーロビル憲章を宣言し、町作りプロジェクトがスタートしました。将来、世界中から最大50.000人の人々が集まり居住することを念頭に設計されました。「オーロビルは、すべての国の男女が、あらゆる主義信条、政治的立場、国籍を超えて平和な生活をすることができ、調和していけるユニバーサルな町を目指し、その目的は人類の調和である」とされています。同時に持続可能な生活や、未来の人間の文化、環境、社会、精神的なニーズに関する調査研究も行なわれています。
町作りの計画面積と周囲のグリーンベルトを合わせると、面積1.620ヘクタール(約20km²)という大規模なエコビレッジです。”Auroville in a nutshell (tenth edition)”(2017年)によれば、居住者人口は2700人を超え、出身国は50カ国以上で、うちインド出身者は40%だそうです。中心にはマトリマンディール(Matrimandir)という金色に輝く建造物があります。
これはオーロビルの中心ある”soul of the city”で「新しい意識の誕生の象徴」とされています。マザーはここから町が放射線状に周囲に広がっていくことを考え、マスタープランは銀河(Galaxy)がモデルとなっていました。マトリマンディールの囲りには、文化ゾーン、国際ゾーン、産業ゾーン、居住ゾーンの4つがあり、さらにその周りを環境再生地、造林地、自然保護区、有機農園などのグリーンベルトが取り囲んでいます。
文化ゾーンには教育施設や、芸術、文化、スポーツ施設が作られています。オーロビルの教育は試験に合格するためではなく、精神的な発達とすべての人間をつなぐ内面調和の体験を自覚することが重視されているそうです。国際ゾーンには国々のパビリオンが建てられ、各国の実生活を通して国々や人々との深い統合を表し、文化的多様性が讃えられています。産業ゾーンは生産活動や商業活動などで現金収入を産み、この共同体を支えていますが、生産性や競争でなく、より良い行為の方が重視されているそうです。
居住ゾーンには複数の住宅地があり、住居は住人同士のコミュニケーションがとりやすい設計になっています。当初はココナッツの葉を屋根にした小屋が作られ、その後共同キッチンのある住居ができ、現在はモダンな集合住宅や棟続き住宅が多くなったそうです。25人のオーロビルの建築家による斬新な設計のバラエティに富んだ住宅が建設されてきましたが、私が案内してもらったのはやや古い住宅地で、集合住宅と戸建ての両方がありました。
オーロビルの住居はオーロビルの共同財産で各住人には所有権がなく、居住はできても退去時に売却することはできないそうです。一方、家具や車、バイクやなどは個人が所有する財産です。
マザーはオーロビル内部ではお金は使われることはなく、外との取引でのみ金銭関係が発生する、と考えていましたが、実際はまだ実現していません。何年にもわたる共同体経済の複数の試みがされてきたものの、オーロビル内部ではまだ貨幣が流通しています。ただ他の地域と異なるのは、商業やサービス業にフルタイムで雇用されてもオーロビル住人には賃金が支払われず、代わりに基本的なニーズを満たすのに必要なものが提供されます。住宅、教育や、基本的な医療、スポーツや文化行事は無料で、生活基本物資も低価格です。また商業活動の利益やゲストハウスの収入より一定の割合が、コミュニティに支払われるそうです。
一般にエコビレッジには「共食」(=食事を共にすること)の機会が積極的に設けられていますが、オーロビルにも共食の場があります。ソーラーキッチンという住民向けのコミュニティ・ダイニングです。ここは住人のコミュニケーションの場でもあり、1000人分以上のランチが用意できるそうです。現金支払いができないので、オーロビル住人の訪問客でない限り、一般訪問者はソーラーキッチンを利用できません。ランチはダイニングで出される以外に、学校、職場などにも提供されています。オーロビルでは多くの住宅地がありますが、その中には小さなコミュニティ・キッチンで、住民に食事を提供している所もあります。
住宅地ではオーロビル近隣の村人の雇用が奨励されています。清掃、ガーデンの維持管理、調理などを外注することで、自分の時間をより必要なことに使えるからです。他にもプラス面があります。近隣の村人たちにオーロビルを理解してもらえ、継続的な仕事で生活が支援され、村人たちがオーロビルの教育施設などにアクセスする機会もできます。ポンディシェリーからオーロビルに毎日通勤する人々は約5000人と報告されています。
オーロビルの地にはかつて乾燥熱帯常緑林(Tropical Dry Evergreen Forest—TDEF)という固有の森林がありましたが、入植が始まった時期までにその森林のほとんどが失われ、大規模な侵食で砂漠化が進んだ土地になっていました。オーロビル住人たちは近隣の村人たちと共に、町作りのスタート時から荒廃した土地に命を蘇らせようとしてきました。何年にもわたって地元の樹種の植林が行われ、有機農園も作られていきました。そのため砂漠化は食い止められ、年月を経て土壌が蘇りました、化学肥料や合成化学農薬を使わずに、有機農法による集約的多品種栽培で多収穫を得る方法が、絶えず調査・研究され、その成果が出ています。長年オーロビルの住人は多くの森林/農園作りに関するセミナーや訓練プログラムを主催してきて、オーロビルのグリーンベルト作りの価値はインド政府にも認知されているとのことです。
私が滞在期間中に訪問したのは、主にこのグリーンベルトの農園、森林、植物園でした。以下の5つの訪問地のうち、はじめの3つは、”Auroville farms, forest and botanical gardens”(2011)から抜粋した内容ですが、一部にHPよりの追加情報をいれています。ピチャンディクラム・フォレストとオーロビル植物園は主にHPを参考にまとめました。
訪問先
1) ソリテュード・ファーム(Solitude Farm)
ビジターセンターの近くにあるこの農園には、福岡正信氏の言葉を記した表示板が複数建てられています。ここは1996年にオーロビルの若い住人たちにより始まりました。福岡正信氏の自然農の考え方とパーマカルチャー・テクニックが使われ、徐々に100%不耕起の農園になり、機械類やトラクターも次第に使われなくなりました。
6エーカーの広さで地元の雑穀や米、油脂作物、豆類、多くの種類の野菜と果樹が育てられています。
農業を基本としていますが、音楽やアートのためのスペースもあります。オーガニックレストランがあり、この農園とオーロビルの他の農園の収穫物を使った食事がいただけます。
収穫物はオーロビルの店や前述のソーラーキッチンにも提供されています。レストランとボランティアのおかげで財政的に自立可能ですが、さらなるインフラ整備のために寄付が募られ、教育センターや新たな寮、食品加工のプロジェクトのための資金提供も求められています。
2) ブッダ・ガーデン(Buddha Garden)
2000年の創立時は、他のファームの敷地の一部に作られていました。灌漑設備のある植え床と、農園管理者家族の住居があります。当初は土壌が貧弱で、病害虫が多く生育が不十分だったそうです。2年目に当初の土地の周辺の土地も入手して拡大し、独立したファームになりました。約10エーカーの広さで、点滴灌水設備のあるレンガで囲われた植え床や、スプリンクラーのある植え床、バナナ、パパイヤやカシューナッツも育てられています。
加えて6000m²の森林もあります。ほとんどこの農園からのものを餌として30~50羽の鶏が飼われ、卵を供給しています。多くの人が、植え床の実験やパーマカルチャーデザインの施工をサポートしたそうです。当初より農園住人と訪問滞在ボランティアによって維持管理されてきました。ボランティア向けの宿所もあり、受け入れは最低2週間からです。教育活動が重視され、多くの地元の若者が2年間の技能習得プログラムに参加しています。持続可能な農業センターが設立され、インターンや調査研究の受け入れもしています。また月曜~金曜日の限られた時間帯にファームを見学することができます。
到着した時に目に入った看板には、訪問者は自由にこのファームを歩き回り、果樹に表示された説明を読んでもらうことを歓迎すると書かれていますが、葉っぱ、花、果物のいずれも摘み取ってはいけないとのことです。なおこのファームにボランティア滞在された方の日本語ブログへのリンクが下にあります。
3) ディシプリン・ファーム(Discipline Farm)
主要農場のひとつで、16エーカーの農園です。1994年よりオーストラリア出身の住人が、他の2名の住人と7名の雇用者で維持管理してきました。ファームの主目的は持続的な食料供給で、環境に望ましい方法で基本収入を確保することです。
2エーカーは点滴灌水で果樹栽培がされています。ココナツ、バナナ、グアバ、パパイヤ、パッションフルーツ、柑橘類が育ち、5.5エーカーには乾燥地帯の植物(主にマンゴー)が植えられています。野菜畑では多種類の野菜が育てられ、一部にマイクロ・スプリンクラーが使われています。牛の飼料が多種類のスプリンクラーで育てられ、8頭の乳牛がコンポストに牛糞を提供しています。条件が合えば、モンスーン作物の赤米が栽培され、合わなければゴマやブラックグラム(インド原産の豆)が栽培されます。小さな加工場があり、果物が天日乾燥されジャムになります。資金がある時に貯水池やポンプが少しずつ改良され、また調理にはバイオガスが使われています。
オーロビルにはエコ-プロ(Eco-Pro)というEM(Effective Microbes)を供給するグループがあり、このファームでは立ち上げの時から、デモンストレーション農場としてEMが全体で使われてきました。
4) ピチャンディクラム・フォレスト(Pitchandikulam Forest)
1820年代までオーロビル地域にあった乾燥熱帯常緑林(TDEF)は、南インドとスリランカだけに見られる珍しい森林生態系です。
オーロビルに入植が始まった1968年には、その森林生態系は分断され点在する状態ですでに多くが消滅し、0.01%が残っているだけでした。森の跡地は、乾燥と侵食でひび割れた荒地になっていました。
1973年に地元のヒンズー教寺院と共に再造林がスタートし、70エーカーの乾燥熱帯常緑林が再生されました。1993年、ピチャンディクラム・フォレストは国の薬用植物保護ネットワークの一部となりました。現在、多くの動植物が生息するこの森は野生生物の研究の場であり、生物資源の教育の場となっています。
種苗場やタネの展示室があり、薬用植物園やタミール地域の村々の生活博物館もあります。ボランティアが滞在する宿泊場所も用意されています。
環境教育のためのバイオリソースセンターは、訪問時は休館日で入ることができず、その周辺と森の中を散策するだけに終わりましたが、随所に絵が手描きされた美しい表示板の「作品」があり、わかりやすい説明がされていました。
HPでは多くの情報が提供され、動画もあるのでご覧になることをお勧めします。
5) オーロビル植物園(Auroville Botanical Gardens)
植物園は2000年に作られた50エーカーのガーデンです。1300種類の植物が、テーマ別の複数のガーデンに植えられています。環境教育のプログラムが複数用意されています。この植物園プロジェクトには以下が掲げられています。(私はこれらを読み、私の自宅の小さな庭もこのような場であって欲しいと思いました。)
- 自然の美しさと多様性を称える場所を作ること
- 環境を大切にし、持続可能な未来を私たちと地球に作ること
- 人間世界と自然界との関係作りに役立つこと
シダ類のガーデンや受粉者(ハチやチョウ)のためのガーデン、薬用植物ガーデン、そして子供に人気のある迷路ガーデンなど16のテーマガーデンがあります。若い熱帯乾燥常緑林もそのひとつで、一番初めに作られたそうです。写真はサボテンガーデンです。
ゆっくり時間をかけて過ごしたい場所でしたが、短い訪問で残念な気持ちが残っています。
6) その他
オーロビルの滞在中、徒歩でいける場所に1人で出かけたり、オートリキシャであちこち移動したりしました。またオーロビル在住のガイド、ビナイさんにタクシーで案内してもらったこともありました。これは貴重な機会でした。私が頼んだ場所以外に、お勧めの場所としてスピルリナ養殖場のオーロスパイラル(Aurospirul)に案内してくれました。スピルリナ(Spirulina)というスパイラルの形をした健康食品の藻で、試飲したらほのかに甘かったです。
スバラム(Svaram)という楽器の展示/研究所にも案内していただきました。様々な伝統楽器や創作楽器が展示され、それらの音色を聞かせてもらえる場所でした。観光だけでオーロビルを訪問する人にも、ここは必見の場所だと思います。残念ながら内部の楽器の写真がうまく撮影できていないので、下のHPをご覧ください。HPで楽器の音を聴くこともできます。
音の研究が行われ、検索すればSvaramの「癒しの音」(=Healingsound)をYoutubeで聴くこともできます。
またSamarpanamGHに滞在中、近くにとても美しい庭のあるゲストハウスの前を通りがかりました。オランダ出身のオーロビル住人 Kireet JakさんのGaia’s Gardenというゲストハウスでした。その話を宿の人にしたら、「見せていただいたら?」と勧められたので、再度訪問してお願いしたら、快く庭に入れてくださいました。帰国後わかったのですが、オーロビルで最も美しい庭の一つだそうです。
滞在期間中は毎日動き回っていたものの、オーロビルにはまだ知らないことがたくさん残っています。例えばコミュニティ運営の組織形態や意志決定の方法です。このエコビレッジの環境面の取り組みとしての代替エネルギー(風力発電、風力ポンプ、太陽光パネルなどの利用)のこともまだ調べていません。教育についても同様です。でもこのコミュニティの広がりと奥深さ、そして大きな豊かさを感じることができました。数日の滞在では、訪問先は私の関心領域であるファーム、森林、植物園の訪問が中心でしたが、帰国後、本稿を執筆していると、このコミュニティの他の側面についても関心が生まれてきました。
この訪問レポートを書いた後、私は自宅に居ながらオーロビルをさらに知るための「旅」に出るのではないかと思います。それはオーロビルの様々な事業、活動、場所、その他に関する英文HPを在宅で訪問する「旅」です。皆様もオーロビルへそんな旅をされませんか?
2022年1月
参考:
- Auroville in a Nutshell—A condensed introduction for guests and visitors, 2017
- Auroville—A Dream Takes Shape, 2016
- Auroville Today Issue No.309, April, 2015
- Auroville farms, forest and botanical gardens, 2011
- Auroville https://auroville.org
- Buddha Garden https://auroville.org/contents/2883
- Pitchandikulam Forest http://www.pitchandikulamforest.org/PF/
- Auroville Botanical Garden https://auroville-botanical-gardens.org
- Spirulina Farm https://www.aurospirul.com
- Svaram https://svaram.org
その他の情報
・Matrimandir https://auroville.org/contents/678
・The Galaxy model https://auroville.org/contents/691
・Solitude Farm and Cafe https://auroville.org/contents/2897
・Buddha Garden http://buddhagarden.org
・ Discipline Farm https://auroville.org/contents/2885