訪問・滞在・参加レポート
フィンドホーン(Findhorn, in the North of Scotland )
フィンドホーンとは?
フィンドホーンはスピリチュアル・コミュニテイーとして世界的に知られたスコットランドの北端のエコビレッジです。
その始まりは1962年にアイリーン&ピーター・キャディ夫妻と、その友人のドロシー・マックリーンの大人3人がキャディ夫妻の子ども達と共に北スコットランドの海のそばの荒地に、キャラバンカーで移り住んだ時でした。今でもそのキャラバンが残っています。
写真の右側に少し見える青いのがそうです。3人は寒冷地の乾燥した砂池で、野菜作りを始めました。その際にドロシーが「植物のディーバ(精霊たち)」と交信しその声に従ったら、寒い荒地に育つはずのない見事な花や、信じられない大きさの野菜ができたそうです。それは「フィンドホーンの奇跡」として話題を呼び、人々の関心が高まり、専門家が土壌調査に来たり、多くの人がこの地に魅かれ集まり、コミュニティが作られていきました。ドロシーは精霊の声で自然の知恵とつながり、アイリーンはうちなる「神」の声に耳を傾け、直感力にすぐれ行動力のあるピーターがそれら実行していったそうです。1965年にはフィンドホーンのガーデンがラジオに初紹介され、1969年にはBBCがこのコミュニティをテレビで初放映しました。本も出版され知名度が高まっていきました。
1972年にはフィンドホーン財団ができました。そして1980年代後半よりエコビレッジ計画が始まり、精神、文化、経済、環境の面で持続可能な村づくりが現在も取り組まれています。1992年、リオジャネイロの地球サミットで国連とのつながりが始まり、協力関係が深まっていったそうです。1995年の国連成立50周年では、「平和活動に実績のある50のコミュニティのひとつ」として表彰され、2004年にはスピリチュアル分野の研究により民間に影響を与えた人として、アイリーンに英国女王より勲章が授与されました。
スピリチュアルなコミュニティとして世界的に知られているものの、創始者達を偶像化することなく、教義もなく指導者もおらず、あらゆる宗教の人を受け入れています。毎年約70ヵ国より1万4千人以上の人々が訪れ、教育機関として、国際会議や多様なワークショップ、セミナーを開催しています。2012年には創立50周年を迎えました。
フィンドホーンという言葉は、フィンドホーン財団を意味したり、エコビレッジを意味したり、両方を意味したりします。立地面ではフィンドホーンは2箇所に拠点が分かれています。ひとつはクルーニーヒルで、短期滞在者の宿泊やワークショップ会場として使われています。もうひとつはザ・パークでコミュニティセンター、ビジターセンター、カフェ、フェアートレードやオーガニック食品店、そしてエコビレッジがあります。エコビレッジには、村人や長期滞在者が居住しています。
フィンドホーンへの訪問
私は以前からフィンドホーンに関心がありました。そこで2015年にロンドンでのパーマカルチャー国際会議(IPCUK)に参加した後で、ウェールズのCATに行き、それからスコットランドまで寝台車で向かいました。フィンドホーンでは初めての訪問者向けの1週間プログラム「体験週間」に参加しました。
フィンドホーンへは、飛行機、長距離バス、鉄道のいずれかで、インバネス空港かインバネス駅に行き、さらに鉄道でフォレス駅(Forres)まで行きます。フォレス駅からフィンドホーンまでは8kmで、バスが運行されタクシーでも行けます。(なおフィンドホーンのHPでは、飛行機よりもできるだけバスや鉄道で来るようにと勧められています。飛行機はCO2排出量がとても大きいからです。そしてもし飛行機を利用する場合は、CO2をオフセットするようにすすめられ、CO2排出量計算と、カレドニア森林再生の植樹活動をしているTrees for Lifeへのリンクが当時のHPにありました。)
体験週間(Experience Week)
向かったのはフィンドホーンのクルーニヒルです。元ホテルでとても居心地の良い場所です。
掃除が行き届き、ていねいに維持管理されているのがわかりました。到着後はラウンジで休憩し、受付け会場に向かいました。受付会場では、くつろいだ雰囲気の中で、男女2人が受付業務にあたっていました。この2人はフォーカライザーと呼ばれ、プログラム期間中ずっと参加者にアクティビティを説明し、エネルギーを向ける方向にリードする役割の人たちです。お二人ともオランダ出身でフィンドホーンの住人でした。この部屋ともうひとつの広間が体験週間の主会場でした。
宿泊用客室は広く清潔で居心地の良い部屋でした。
ここに私はギリシャ人の若い女性と2人で滞在しました。プログラムの初日に、フォーカライザーから「ルームメートになった人と話をし、自分の習慣についてお互いに話してください。」という「宿題」が出されました。良い宿題でした。今回このプログラムへの参加者は9カ国(英国、ニュージーランド、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン、ギリシャ、コロンビア、日本)からの計21人で、日本からは私ひとりでした。参加者の職業はコンピューター技術者、鍼灸医訓練生、作業療法士、Webデザイナー、動物コミュニケーター、エコ住宅のディベロッパー、大学職員、ピアニスト、環境活動家などでした。客室の外には共同の浴室、トイレ、洗濯室があり、それぞれの設備には手書きの表示がされていて、物を大切にし周囲にも配慮しながら使う日常の心がけが読み取れました。
ラウンジは、私たちがいつでも自由に過ごせる場所でした。
ただしパソコンや携帯電話はここで使うことができず、サイバールームという専用の部屋でのみ使用できました。そのため日常生活で機械音を聞くことがなく、通信機器からの電磁波も避けられ、ありがたい配慮でした。ラウンジの外の廊下にはハーブティなどの飲み物が常に数種類用意され、いつでも自由にいただけました。
食事は菜食で、ビーガン向けと、乳製品が使われた食事の両方から選べました。
なおプログラムの最終日にはCelebration Dinnerとして、菜食メニューに加えて、ワインや魚介類の料理を選ぶことができました。
体験週間の期間中、クルーニヒルから少し離れたザ・パークに出掛け、創始者3人が子供たちと移り住んだキャラバンを見ました。(→P.1の1枚目の写真)フィンドホーンは、ここから始まり進化していったのです。そして現在のエコビレッジの中も散策しました。リサイクルされた大きなウィスキー樽でできた家もいくつかありました。
フィンドホーンのHPによれば、この村の暮らしの環境負荷は、英国平均の約半分だそうです。100軒以上の環境配慮型住宅があり、世界各地から集まった400人が居住しています。
4つの風力発電から電気が供給され、発電量が需要を上回った際は、独自の送電網より外にグリーン電力を供給するコミュニティ・ビジネスが成功しているそうです。住居の設計者は省エネ性能を重視し、新築住居は断熱が重視され、二重窓、三重窓が使われ、古い住居よりもエネルギー費用が何倍も低くなっています。2010年に250kWのバイオマスボイラーが設置され、パークの中心部の暖房に使われ、CO2排出が年間80t減少できているそうです。エコビレッジの住居では太陽熱温水器が多く使われ、英国初の環境配慮型住宅の技術ガイドブックがこの村から出版されています。出資制のコミュニティ生協があり、地域通貨が発行されています。菜園に加えて商業用ファームもあり、英国で最古で最大のCSA(Community Supported Agricultureの仕組みがあります。また車の共同利用(カー・シェア)クラブでは電気自動車も使われています。
フィンドホーンのエコビレッジでは、暮らしの精神面、社会面、環境面、経済面のつながりがわかりやすく示され、現在考えられる人間居住地としてはベストのもののひとつだそうです。Global Ecovillage Network(GEN)の創設メンバーの一員でもあります。このエコビレッジは、ホリスティックで持続可能な生活モデルとして、1998年にUN-Habitat Best Practice(国連の最良居住地)に選定されました。
村の下水はリビング・マシーンで処理されています。そこを見学させていただきました。
これは1995年にできたヨーロッパ初のリビングマシーンだそうです。温室内に一連のタンクが並べられ、500人分までの下水の処理能力があります。バクテリア、微生物、藻、多種類の植物や樹木、巻貝や魚類が生態系として関与するこのシステムは、エネルギーを多く消費し化学物質に依存した処理方法の望ましい代替手段となっています。安い費用で、下水処理のきびしい新放流基準を満たすレベルの処理ができ、海への放流もできるそうです。
ある日フォーカライザーが、フィンドホーン在住歴46年で、パーマカルチャー講師でもあるクレイグ・ギブソン氏を私に紹介してくださいました。クレイグさんはオーストラリア出身で、フィンドホーンのコミュニティ発展やエコビレッジのコンセプトに関わり、かつてフィンドホーン財団の運営議長や理事をされていたそうです。Applied Ecovillage Living(エコビレッジ生活応用編)というプログラムの創設と役員を15年間され、村のウィスキー樽の住居にお住まいでした。うれしかったのは、クレイグさんが、ご自身の住居内とガーデンの見学を私たちにさせてくださったことです。当日クレイグさん本人はご不在でしたが、代わりにフォーカライザーのひとりが、私たちを案内してくださいました。
私はすでにプログラム参加者でパーマカルチャーに関心のある方に、自己紹介の補足としてiPadにはいったアースガーデンの写真を随時お見せしていました。興味深いことにクレイグさんのガーデンは私のガーデンとはかなり異なり、他の参加者の方とパーマカルチャーガーデンの多様性について、話がはずみました。クレイグさんのお庭はニワトリが放し飼いされ、食べ物がたくさん収穫できるエディブルガーデンの見本のような素晴らしいお庭で、若い男性参加者にとりわけ人気がありました。
スピリチュアル・コミュニティのフィンドホーンは、私向きの場所かどうか確信が持てないまま参加しましたが、ここでの暮らしはとても居心地が良く、質の良い時間が過ごせました。設立時の考え方が、長年のすべての活動のコアとなってきたそうです。その考え方はInner Listening and Attunementという言葉で表されています。「自分の内なる声を聞くこと、そして(自分以外の生命と)調和し一体化すること」という意味のようです。そのためフィンドホーンでは作業の前と後に、アチューンメントという短いセレモニーをしました。全員で輪になって両隣の人と手と手を重ね合わせて、心を集中させ一体感を感じるのです。
「体験週間」のプログラムには以下の時間がありました。
- 瞑想や黙想
- 聖なるダンス(Sacred Dance)
- 音楽
- 自然の中に入る(=森と渓谷を歩いたり、海辺で過ごしたり)
- Love in Actionの作業(建物メンテナンス、清掃、ダイニング、キッチン、ガーデン作業)
聖なるダンスの中には大地にタネを播くダンスがあり、とても印象に残りました。永続性を象徴するダンスに思えたからです。瞑想の時間も何度かありましたが、会場となるサンクチュアリーの中には植物が飾られた一本のロウソクがあるだけでした。
海辺に皆で出かけたり、森の中を渓流に沿って歩いたこともありました。
週4日間のLove in Actionの作業では、村の人たちと共に作業し交流ができました。私は迷わずガーデン作業のグループに入り、クルーニヒルの庭で作業しました。
ある日フィンドホーン在住の日本人女性と出会いお話ししました。そしてその女性からテーゼ(Taize)を歌う集まりがあることを聞き、参加しました。高校生の時、チャペルで聖歌を歌ったことがありましたが、コーラスはそれ以来していないので、ついていけるか気がかりでした。でも男声と女声で感動するほど美しい多重唱のメロディが生まれ、私もいつしかその一部になっていたように感じました。
実を言うと、私の当初の関心と「体験週間」のプログラム内容とは少しずれがありました。でもこの1週間は、日頃いつも何かに追われて忙しい私に必要な時間だったようです。フィンドホーンには体験週間以外にも興味深いプログラムが多くあります。もし私が英国在住だったら、時々出かけたい場所になっていたかもしれません。
2016年
参考:
- https://www.findhorn.org 閲覧2015年11月20日
- https://www.findhorn.org/japanese/history/#.Vk7FISgdi_Q 閲覧2015年11月20日
- Workshops & Events 2015, Findhorn Foundation
- The Living Machine at the Findhorn Foundation
- フィンドホーンのFBや動画、参加者の日本語ブログもネット上に見つかります。関心のある方は検索してください。また書籍も複数、日本語で出版されています。