訪問・滞在・参加レポート
パーマカルチャー国際会議、インド(IPCIndia 2017 – International Permaculture Conference in India)
2017年には13回目のパーマカルチャー国際会議(International Permaculture Conference:IPC)がインドで開催されました。略してIPCIndia2017と呼ばれています。私は2015年の英国(IPCUK2015)に引き続き、今回も参加したのでその簡単な報告をします。(詳しくは下の参考(1)を参照。)
開催されたのは、インドの暑い気候が涼しくなり過ごしやすくなった時期でした。11月25日~26日の2日間にコンファレンスが開催され、引き続いて11月27日~12月2日のにはコンバージェンスが開催されました。コンファレンスとコンバージェンスの違いは、パーマカルチャー国際会議英国(IPCUK2015)の報告に書いているのでご覧ください。
IPCIndiaを主催したのはアランヤ・パーマカルチャー・ファームと呼ばれているAranya Agricutural Alternativeです。この英語名には”従来の農場とは異なるアランヤ”という意味があります。3つの目標として、1) 農村地域の力を強化、2) 天然資源の持続可能な使い方の推進、3) 女性、子ども、農民、若者に持続可能な生計の実現化、が掲げられています。5ヘクタールの土地に1997年より農場作りが始まり、1999年に農場が設立されました。当初よりすべてにパーマカルチャーの手法が使われ、従来型の農場より何倍も収量が多いと報告されています。ナルサンナ&パドマ・コップラ(Narsanna & Padma Koppula)の家族農場です。詳しくは下の参考(2)をご覧 ください。
11月25日からのコンファレンスに先立ち、すでに10月より様々なエッジイベント(Edge events)が各地で開かれてきました。教師トレーニング、地域の食糧主権に向けたファシリテータートレーニングなどです。詳しくは下の参考(6)をご覧ください。そして、日が迫って来ると、プリ・コンファレンスとして様々なコースが開催されました。72時間+25時間の拡大PDC(Expanded permaculture design certificate)コース、上級コースなどです。またコンバージェンス終了後の12月2日以後にも多くのエッジイベントが予定されていました。
コンファレンス
IPCIndia 2017のコンファレンスはProfessor Jayashankar Telangana State Agricultural University(PJTSAU-プロフェッサー・ジャヤシャンカー・テランガナ州農業大学)で開催されました。当日、正面入り口前ではインド女性たちのダンスが参加者を迎えてくれました。
PJTSAUの大ホールはインドのパーマカルチャーのパイオニアである Dr.Venkatにちなみ、Dr.Venkat Main Hallという名前でした。
他にBill Mollison-Hall 1 や Masanobu Fukuoka-Hall 2 という名前のホールもありました。私は前日の24日の夕方にすでに会場に到着していました。宿は大学から少し離れた寮のような古い建物でした。すでに何人かの参加者が到着していて、うち5~6人の方と一緒に近くのレストランに夕食に出かけました。初めての場所で、初対面の国籍の異なる人々との夕食でしたが、友人達と食事をしているような和やかな雰囲気で、気持ちが落ち着きくつろげました。宿は2人部屋で、ルームメイトは中国からの若い女性でした。中国でもすでにパーマカルチャーがスタートし、エコビッレッジが作られていることを話してくれました。コンファレンスでその関係者の発表、”Revive urban lands in Chinese modern cities, according to the principles of Permaculture(中国近代都市の土地 を、パーマカルチャー設計原則で蘇らせる)” があったので出席し、帰国後さらに中国でのパーマ カルチャーについて調べました。
コンファレンスのメインテーマは ”健全な社会に向かって(Towards Healthy Societies)” でした。以下の6つのサブテーマが設けられていました。それぞれのサブテーマに属する複数の発表、ワークショップ、パネルディスカッションがありました。それらのタイトルは下の参考(4)のリンクのCONFERENCE SPEAKERS & PRESENTATIONSのそれぞれのサブテーマをクリックしたら出てきます。それらを日本語に訳してAppendix1 で読んでいただけるようにしました。これらの発表タイトルより、世界各地のパーマカルチャー関連の多様な取り組みがわかります。
- Women as agents of change 変化の担い手としての女性
- Permaculture as a social responsibility 社会的責任としてのパーマカルチャー
- Grassroots permaculture in action 草の根パーマカルチャーの取り組み
- Sustainable water resource management 持続可能な水資源の維持管理
- Revitalising and preserving traditional farming practices 伝統農業の営みの保全と蘇生
- Permaculture and climate change adaptation パーマカルチャーと気候変動への適応
コンファレンスはデビッド・ホルムグレンによるスカイプでの開会スピーチより始まりました。(彼は2015年のIPCUKでもスカイプ参加でした)続いてヴァンダナ・シヴァによる基調講演がありました。「女性は暴力から非暴力への変化を主導するー強欲から、配慮と分かち合いへ」(Women Lead the Change from Violence to Non Violence, from Greed to Caring and Sharing)というタイトルです。これはビデオ録画がありますが、音声の質が悪く、聞き取りにくいのがとても残念です。次にロビン・フランシスが「変化する世界でコミュニティのレジリエンスを蘇らせる」(Regenerating Community Resilience in a Changing World)というタイトルの基調講演をしました。夜にはインド文化や娯楽のプログラムがあり、音楽やダンスで賑わっていましたが、私は残念ながら昼間の疲れで、休養していました。なおコンファレンスの様子をまとめたVIDEO SUMMARY OF THE CONFERENCEを以下で見ることができます。http://ipcindia2017.org/conference.php
27日は複数のバスに分譲してコンバージェンスの会場に向かいました。(私が乗ったのはとても古いバスでドアがありませんでした。)途中休憩も入れて4時間かかって到着したのはポラム農場(Polam Permaculture Farm)というまだ新しい農場でした。
コンバージェンス
ポラム農場は96エーカー(=約39ヘクタール)のまだできたばかりの農場でした。コンバージェンス開催時の2年前までは侵食で荒廃した広大な土地でしたが、アランヤ農場のナルサンナ・コップラのPDCコースを受講したサプリヤ&アニル・ゴッダムの2人が、環境保全型で再生能力があり持続可能な農場を作るという確固としたビジョンを持ち、開拓をスタートしました。ポラム農場の東、南、西側は遺伝子組換え綿畑に囲まれ、北側は湖でした。そのような環境の中、ポラムはパラダイスのようなもうひとつの農の場でした。
ポラムにはまだ農場らしい姿になっていない所もありましたが、大きく美しいマンダラガーデンがすでにできていました。加えてこの農場では、コンバージェンス参加者の食事のための野菜が計画的に栽培され,用意されていたそうです。宿泊場所は大半がテントでした。
発表やワークショップの場所、食事場所、宿泊場所はそれぞれ離れていて、移動にはかなり歩きました。
なお夕食後の暗闇の中を懐中電灯の灯を頼りにテントに戻るのは私にとって至難の技で、毎回他の人に同行させてもらって戻りました。
コンバージェンスには地元の人たちも多く出席していたので、インドの文化や習慣を理解し気配りする必要があり、例えば海外からの女性たちは露出の多い服装を控えるような配慮が必要とされていました。村の伝統技術の紹介として、糸紡ぎ、草木染、スパイスの紹介などもされていました。
またコンバージェンスがゴミ・ゼロのイベントになるように、水筒や自分専用ゴミ袋を持参し、フラスチック容器にはいった食品などプラスチック包装材の持ち込みをできるだけ避けるようにとの要請もありました。
広い農場内でひときわ目だったのが、コンポストトイレでした。複数の場所にトイレ群があり、以下の写真3枚は外観、2枚が内側です。コンバージェンスには60か国と地元と合わせて600人 の参加者があったとのことなので、豊かな養分がこの新しいファームに供給されたはずです。
コンバージェンスのプログラムもコンファレンスと同様、6つのサブテーマに分けられていました。発表やワークショップのタイトルは、下の参考(5)でご覧いただけますが、日本語訳はありません。
コンバージェンスでは、私も発表をしました。11/29の午後のDiploma presentationでの発表でした。すでに2015年英国でのIPCUKで、ローズマリー・モロー(Rosemary Morrow)にディプロマ取得について相談し、帰国後、英文19ページのDiploma applicationを執筆し、Referencesと併せて申請書類として提出済みでした。そして今回のIPCIndia2017のコンバージェンスでマレーシア、イタリア、ポルトガル、フィリピンのディプロマ候補者達と共に、私はアースガーデン in 美山町での取り組みを発表しました。
候補者全員が発表を終えた時、ローズマリーが、聴衆に ”Is it OK to give Chisa a diploma?” というふうに、発表者1人ずつについてたずね、聴衆が承認の拍手をしてくださり、全員がディプロマを授与されました。
発表の翌日の11/30に私はポラム農場を出発しました。南インドのエコビレッジ、オーロビルにいく予定の都合があったからです。他にも2人出発する方があり、一緒にタクシーで空港に向かってポラム農場を出ると、あたりは一面が遺伝子組み換え綿のモノカルチャー畑。まるで別世界でした。
最終日の12月2日まで参加できなかったことと、期間中にアランヤ農場へのファーム・ツアーに参加できなかったことが残念でした。またIPCUK2015の時から関心を持っていたWalter Mugove Nyikaさんの発表「私たちが望む未来を作る手段としてのパーマカルチャー—学校で若者達と共に」(Permaculture as a tool for shaping the future that we want— working with young people in schools)には(→参考(7))遅刻して大半を聞き逃してしまいました。でも発表ノートを公開してくださっていて(→参考(3))ありがたかったです。他に興味深かったのはポ ルトガルのEunice Neves さんの発表でした。米国とオーストラリアの評価の高い、長年を経た(mature)パーカルチャーサイトを15カ月間かけて訪問し、滞在し、調査し、比較した ”リサーチ・ツアー” の発表でした。
私自身が高齢になっていたので、身体の不自由を感じながらの参加でしたが、参加できて良かったです。多くのインスピレーションがあり、複数の知人との再会や思いがけない出会いがありました。2015年のIPCUKへの日本からの参加者は私ひとりだけでのようでしたが、今回のIPCIndia2017には日本から数名の参加者と、海外在住の複数の日本女性の参加もあり、時折、日本語での会話ができたことも良かったです。今後のIPCにも、日本からの参加者があることを望みます。
なお、次回のIPCは3年先の2020年にアルゼンチンで開催される予定でしたが、新型コロナウィルスのパンデミックで2021年に延期になり、さらに2022年の11月~12月に再延期されています。
2022年1月
Appendix 1
コンファレンスの発表とワークショップの日本語タイトルです。世界のパーマカルチャーの多様な展開を知る一助になるのでクリックしてご覧ください。→IPCIndia Conference Programmesのタイトル日本語訳