訪問・滞在・参加レポート
パーマカルチャー国際会議、台湾(IPC15 Taiwan 2024 – International Permaculture Conference in Taiwan)
台湾への旅
2024年11月末~12月始めに台湾でのパーマカルチャー国際会議(IPC=International Permaculture Conference)に参加しました。今回は日本からかつてない多くの参加者がありました。私もこの参加者グループと繋がり、団体参加で申し込みました。でも実際の旅はこれまで通りのひとり旅のスタイルで、独自の参加計画を立て必要な手配と予約を自分で済ませました。
パーマカルチャー世界大会とも呼ばれるこの集まりは、15回目の国際会議なのでIPC15Taiwanと呼ばれ、本稿でも以降この名称を使用します。これまでのIPCと同様、始めの2日間はコンファレンスとして、ややフォーマルな雰囲気で一般に公開され、その後の5日間はコンバージェンスと呼ばれて、原則としてPDC(パーマカルチャーデザイン資格)取得者を対象とした、カジュアルで親密感のある集まりでした。コンファレンスは台湾南西部の港湾都市、高雄市で、コンバージェンスは南東部の台東郡にある先住民タロマク族(Taromak[Rukai]Tribe)の村で開催されました。
私はもう後期高齢者なので、若い人達よりも余裕のある旅程が必要でした。そこでコンファレンスの2日前に高雄市に到着しました。宿は市内交通の中心となっている地下鉄MRTの駅から徒歩5分の場所でした。
この2日間で高雄市内の何箇所かをマイペースで訪問しました。まずは宿の近くのセブンイレブンでICカードを購入しました。そしてMRTで高雄市原生植物園(写真1、写真2)と、高雄市立歴史博物館(写真3)に出かけました。加えて図書館にも行きました。その理由は、35年前に私が英訳した広島の原爆被爆者の反核短詩集を寄贈したかったからです。1988年に米国で出版され、現在は出版記録のみネット上に残っているものの、販売は終了しています。でも私の手元には、この英訳短詩集がまだ少し残っているので(写真4)、これまで海外に行くたびに少数部数を持っていきました。そして、核兵器による被曝の実相を伝えるため、現地の図書館を訪れ寄贈を続けてきました。今回は2箇所の図書館(高雄市立図書総館と高雄市立図書館左新分館)を訪問し、寄贈させていただきました。(写真5)





初めての台湾でしたが、言語が異なることを除けば外国に来た感じがせず、日本での日常生活と変わりませんでした。食事も私が日頃、手作りしている野菜中心の家庭料理と同様な食事が宿の周辺の店でいただけ、治安面の不安も感じることなく、リラックスして滞在できました。
IPC15 Taiwan
IPC15Taiwanの目標(Goals)として 以下の5項目が掲げられています。原文(英語)は参考1のリンクでご覧ください。
試訳
- パーマカルチャーの”菌糸体(myceliation) ”をより広い世界に増やしていく。
- 限界を超えた状況と気候変動に立ち向かうため、都市と農村でのパーマカルチャーデザインが共に進化できる方法を探す。
- 復元力あるデザインと再生への戦略を通じて、パーマカルチャーが危機に瀕する世界を地域レベルで救える方法を思い描く。
- パーマカルチャーの取組みの、知識と経験を共有する。
- パーマカルチャーの倫理と原則を体現し、楽しくて愛されるIPCを共に創る。
コンファレンス
場所は高雄市の砂糖倉庫コンファレンス・センター(R23 Ten Drum Sugar Factory Conference Center, Kaohsiung City)で、英語とMandarin Chineseで行われました。MRTの最寄りの駅(写真6)で下車して会場まで歩いていると、見覚えのある方が私のすぐ隣を歩いていました。オーストラリアのクリスタル・ウォーターズ在住のMorag Gambleさんでした。2009年にクリスタル・ウォーターズに滞在した時、訪問してガーデンを見せていただいたことがありますが、記憶されていないと思ったので、改めて自己紹介し、Youtubeも時々見せてもらっていることなどを、話しながら会場に到着しました。(写真7、写真8)2日目はMRTの中で若い女性数人のグループに出会いました。韓国からの参加者で、お互いにコンファレンスに参加することがわかるとすぐに打ち解けて、一緒に会場に到着しました。



会場は1909年に日本資本の台湾製糖有限公司によって設立され、1910年より生産が開始された砂糖工場の跡地でした。2010年に台湾製糖工場の歴史的外観を保存するため、砂糖倉庫スペースが改装され、会議場、展示場として生まれ変わったそうです。緑豊かで木陰もあり、外でランチをいただくのに良い場所でした。(写真9、写真10、写真11)



コンファレンスの11/30と12/1の2日間は一般に公開され、約335名の教育者、専門家、実践者が、台湾と30カ国より参加したと報告されています。(参考2)(写真12)

うち日本からの参加者は35名でした。今回のコンファレンスのテーマとサブテーマの日本語訳を下に掲載しておきます。(参考3)
レジリエントな未来に向けて、都市と農村をつなぐ
- 気候変動の時代の、災害防止と緩和のための都市と農村の再生デザイン
- パーマカルチャー教育と若者のアクション
- エッジでのパーマカルチャー:難民と弱者のためのパーマカルチャー
- オーストロネシアと東アジアの文化の知恵をパーマカルチャーデザインに作り上げる
- レジリエントな暮らし:ヒューマンスケールで、地域に根差した経済
- レジリエントな土地管理のためのパーマカルチャー・デザイン
- 社会の調和と健康のためのパーマカルチャー・デザイン
会場に設けられたステージでは、プラスチック製品の使用が控えられ、装飾には植物が使われていました。まずは先住民タロマク族の子ども達の歌や踊りからスタートし、サティシュ・クマール氏の話と、デビッド・ホルムグレン氏の基調講演(オンライン)が続きました。(写真13、写真14)その後、発表、討論、デザイン事例、哲学、最近の調査研究などが、発表とパネルディスカッションを組み合わせた形で2日間続きました。(写真15)スケジュールや発表者名は下のリンクでわかります。(参考4) なお長年に渡って幅広く多くの活動をしている発表者の場合、さらに多くの活動がリンク先に紹介されていることもがあります。(参考5)



写真16はコンファレンス会場の参加者達です。写真17は主宰団体Earth Passengersの共同代表、Hui-I ChiangさんとPeter Moreheadさんです。会場の外にはディスプレイコーナーがあり、各国の参加者が持参した閲覧用資料や出版物などが展示されていました。写真18は日本の参加者によるディスプレイです。ここは食事の提供場所でもあり、手作りの家庭料理が出されましたが、とりわけ初日のdinnerは素晴らしかったです。(写真18、写真19)




高雄で2日間のコンファレンスの終了後は、2日間の休日が設けられ、その休日後に台東でコンバージェンスが5日間開催されました。この休日中、参加者たちは高雄から台東まで移動したり、先住民Paiwan族の村で文化と暮らしを学ぶオプショナルツアーに参加したり、IPC15 Taiwanのホスト団体、Earth Passengersのガーデンと研修施設を見学させていただいたりしました。私もこの見学に参加しましたが、その報告は後回しにして、まずはコンバージェンスについてお伝えします。
コンバージェンス
コンバージェンスの開催地は高雄から鉄道 (台鉄)で約2時間半の台東駅から、バスを乗り継いで行った所にあるタロマク族の村でした。パーマカルチャーと縁が深い村で、台湾でパーマカルチャーが紹介された初期の頃、海外からのゲスト講師を招いてこの村でPDCコースが何回か開かれていたそうです。そのため多くの村人たちがパーマカルチャーのコンセプトを理解し、実際に取り組まれているとのことです。
ここに来やすい、おすすめの宿は台鉄の知本駅から徒歩圏内のゲストハウスでした。タロマク村行きの直通シャトルバスがそこから運行されていたからです。コンバージェンス参加者の大部分がそのゲストハウスに宿泊していましたが(写真20 )、私は台東駅から徒歩圏内の民宿に宿泊していたので、通うのに少し時間と手間がかかりました。

会場は河岸にある広大な広場で、その入り口付近にバス停と駐車場があり、少し離れた所にキャンプ場やコンバージェンス会場がありました。写真21の手前にコンバージェンス会場への入り口があり、その300m向こうにバス停と駐車場があります。(写真21)会場内には食事場所や洗い場が設けられていました。(写真22、写真23)



コンポストトイレもたくさん用意されていました。(写真24)全体集会向けの広い教室がひとつと、小さな教室が7つ設営されていました。(写真25 写真26)各教室前には毎日の発表タイトルが黒板に英語と漢字でわかりやすく書かれ、このような配慮はとてもありがたかったです。中心には手作りの舞台がありました。(写真27)




興味深かったのは、初めてこの会場に私達が入る際、タロマク族の伝統儀式に従って入場したことです。参加者が年齢が高い順番に一列に並び、刈り取られた草が火でいぶされた煙の中を通って入場するのです。知人のトリッシュ(Trish Allen)が列の先頭にいました。私は彼女と同年齢だということをすでに知っていたので、最年長者として一緒に先頭に並びました。そしてトリッシュに何月生まれかたずねたら、私の方が1ヶ月早く生まれていたので、私が先頭に立ち、トリッシュが2番目、その他の大勢の参加者が後に続いて入場しました。(写真28、写真29)入場した所には2体の像がありました。(写真30)



発表者のプロフィールは参考5のリンクで見ることができます。コンファレンスとコンバージェンスのどちらの発表かもわかります。(詳しくはリンク先の「Read Bio」をクリックしてください。)9:15〜17:30が発表の時間帯で、100を超える発表が予定されていました。会場への入り口横には5日間の発表テーマ、発表者、教室番号がわかりやすく、掲示されていました。(写真31)現地で新たに発表することを決めることもできました。この掲示内容と同様なものを参考6で見ることができます。
入り口のそばには受付や、必要に応じて様々なヘルプを提供をしてもらえるボランティアデスクがありました。ボランティアさんに相談すれば、的確で迅速な対応をしてくださいました。うち2名には日本語対応もしていただけました。その隣には手作り工芸品や、スウィーツ、飲み物が売られていました。(写真32)


コンバージェンスの1日目の夜に、日本からの参加者が夜のアクティビティを担当してほしいとの要望が、予め主催者側より出されていました。ただ私はこれまで参加したIPCでも、夜はひとり静かに過ごすのが習慣で、まして今回は後期高齢者でさらなる休養を必要としたため、失礼させていただきました。若い方々が盆踊りを企画され、とても盛況だったようです。(写真33)

その他
コンファレンスとコンバージェンスの日程の前後に、pre-IPCやpost-IPC のコースが用意されていました。パーマカルチャーの講師トレーニングや、PDC (パーマカルチャーデザイン資格コース)です。子ども達向けの活動もあり、エッジイベントもいくつか紹介されていました。くわしくは参考7のリンクのメニューより、IPC15を選びクリックしてください。
ホスト団体について
IPC15 は台湾南東の台東郡にあるEarth Passengers(大地旅人)により主催されました。この団体はHui-I ChiangさんとPeter Moreheadさんにより、1997年に環境教育のために設立されました。台湾で初めてのパーマカルチャー紹介団体で、20年以上のパーマカルチャー・デザインと多様な教育活動の実績があります。(参考8)
私は12月2日の午前中に高雄から台東に鉄道で移動し、午後から日本からの皆様と合流して、この団体の見学ツアーに参加しました。台東駅からバスに数十分乗り、下車して少し歩いた所でした。(写真34、写真35)山と海岸の間にある1ヘクタールの敷地に、food forestに囲まれた研修施設と居宅(写真36、写真37)、受講生のキャンプ宿泊場所(写真38)、ゲスト講師の宿泊所、コンポストトイレなどがありました。





キッチンガーデンがあり、マスコビーダック、ニワトリ、ガチョウが飼われていました。(写真39、写真40) Earth PassengersのHP(参考8)には、セクタープラン、初期の植栽デザイン例、ゾーンプランが紹介され、パーマカルチャーの受講生にもわかりやすい実例の提示となっています。デザインと様々な種類のパーマカルチャー教育に加えて、地域通貨(East Coast Local Currency Project — Mi-Bi) や、パーマカルチャーの英文書籍の翻訳もされ、幅広く充実した活動をされていました。見学の際はHui-I Chiangさんがお忙しい中、自ら案内してくださいました。


ガーデンにはバナナがたくさん育ち、美しい植物も目を楽しませてくれました。(写真41、写真42、写真43)



最後に
今回は私にとって3回目のパーマカルチャー国際会議でした。日本からの参加者数は、2015年英国のIPC12では1名、2017年インドでのIPC13では数名でしたが、今回は35名が参加し、その中の11名が発表(ワークショップを含む)をされました。うち9名は英語、2名は日本語で英語通訳付の発表でした。日本での取組みがこの人数で発信されたのは画期的なことです。今回のIPC15Taiwanで日本のパーマカルチャーが世界デビューをしたと言って良いでしょう。併せて海外の方々の発表を多く聴くことで、日本のパーマカルチャーを考えるいくつかの新たな視点も得られたかと思います。
私は今回は高齢のため不参加のつもりでしたが、東アジアでの近場開催なので思い直しました。そして参加する限りはコンファレンスもコンバージェンスも、できるだけ多くのセッションに参加することを心に決めていました。そのため余裕をもった日程を組み、体力温存のためマイペースで行動していました。その目標はほぼ達成できましたが、高齢ゆえの難聴が進んでいて英語の聞き取り能力が低下し、自分がメモした内容(特に数字の聞き取り)に信頼が持てなくなっていることに気がつきました。仕方がありません。それでも旧知の人たちに出会えたこと、そして今回も新たに心に残る発表にいくつか出会えたことを、とてもうれしく思っています。
今後はひとりで海外に出かけていくことが難しくなるでしょう。代わりに、これまでに出会った国内外の関心を持つに至ったパーマカルチャー・プロジェクトについて、さらにマイペースで調査し、できれば執筆しておきたいと考えています。
2025年4月 植月 千砂
謝辞
今回の執筆では、私が撮った写真に加えて、主催者側で撮影された写真、そして以下の皆さまからの写真も使わせていただきました。たくさんの写真を皆さまと共有でき、感謝しております。
(敬称略)小山宮佳江、Shoko Sakaki、鈴木菜央、三村信也、吉田俊郎
参考
- IPCIndia2017
- https://e-info.org.tw/node/240406 「不想成為被氣候變遷綁架的人 樸門永續設計在台知識交流 | 環境資訊中心」の機械英訳 Reported by Yang Yushan, Special Correspondent, Environmental Information Center, December 12, 2024, in Taiwan News “I don’t want to be one kidnapped by climate change. Permaculture Sustainable Design exchanges knowledge in Taiwan”
- https://www.ipctaiwan2024.org
- https://www.ipctaiwan2024.org/archives/event/ipc-conference
- https://www.ipctaiwan2024.org/presenters
- To check out the latest DRAFT of the convergence schedule please press here.
- https://www.ipctaiwan2024.org/archives/event/post-ipc-course-1
- https://earthpassengers.org/education-center