訪問・滞在・参加レポート
パーマカルチャー国際会議、英国(IPCUK 2015 – International Permaculture Conference in UK)
パーマカルチャー国際会議(IPC)は、1984年に1回目がオーストラリアで開催され、その後、引き続きアメリカ合州国、ニュージーランド、ネパール、スカンジナビア、クロアチア、ブラジル、マラウィ、ヨルダン、キューバで開催されてきました。そして2015年には12回目が英国で開催されました。英国のパーマカルチャー協会(the Permaculture Association)が主催し、IPCUK と呼ばれ、以下の目的が掲げられています。
- 私たちが望み必要とする世界をデザインするために、現在ある手段や方法がどう使えるかを探究し共有する。
- より持続可能な世界の実現のために活動している様々な集団やセクター間のつながりと、協力を強めていく。
私はこのIPCUKに出席しました。9/8~9/16の9日間の日程は2つに分かれていました。9/8と 9/9の2日間はコンファレンス(Conference)、9/10~16の7日間はコンバージェンス (Convergence)で、この2つを合わせたものがパーマカルチャー国際会議(IPC)です。
コンファレンスとコンバージェンスは、開催場所と性格が異なります。コンファレンスはロンドンのユーストン(Euston)駅近くのライト・フレンズ・ハウスというクウェーカー教の施設が会場でした。
ここは複数の公共交通機関によるアクセスが容易で、ヒースロー空港からも行きやすい場所です。会場に宿泊施設が付属していなかったので、各自で手配する必要がありました。私はフレンズ・ハウスより徒歩2分のパスフィールド・ハウスという London School of Economics and Political Scienceの学生寮の1室を予約しました。
コンバージェンスはコンファレンス会場から20km離れた所で、ロンドンより鉄道で26分のChingford駅で下車し、会場まで徒歩30分の所にあり、送迎バスで行きました。
会場はギルウェル・パーク(Gilwell Park)という緑豊かな広い公園で、宿泊用のキャンプ地とロッジがそれぞれ複数ありました。野外には大きなサーカス・テントが張られて全体会場となり、その周りに個々の発表/ワークショップ用の小さなテントがたくさん並んでいました。
コンファレンスは誰もが参加でき、いわば外に開かれたイベントでした。基調講演はややフォーマルな発表で、世界的に知られているパーマカルチャーのデザイナー、教育者や、関連領域での活動家、専門家、研究者による発表でした。(コンファレンスの基調講演については下の参考(1)のリンク参照)
また分科会では、バラエティに富んだ発表やワークショップが行われました。
それらのタイトルと発表者名を日本語に訳したものを、下の Appendix 1でクリックして見ていただけます。
これらの多くのタイトルより、世界でのパーマカルチャーの多様性、広がり、発展が実感できます。コンファレンスはパーマカルチャーのコンセプトで様々な取り組みをしている人々と、それ以外で同様な活動や研究をしている人々との交流や連携を深めるインターフェースのようでした。最終日には2017年にインドで開催されるIPCの主催者に引き継ぎがなされました。
コンファレンスとは異なり、コンバージェンスへの参加は原則としてPDC (Permaculture Design Certificate)コース修了者に限定されていました。コンファレンスよりもカジュアルな、合宿のような雰囲気で、世界中のパーマカルチャリスト達の交流とネットワーキングの場でもありました。
期間は6泊7日でしたが6泊(全期間)参加以外に、4泊参加や2泊参加も選べました。現地の受付で参加者は滞在日に応じた種類の腕輪(wrist band)と食事カードを受け取りました。期間中は腕輪を常に着用しておく必要があり、食事カードはクーポンでもあるので食事の時に必ず見せてチェック印を記入してもらいます。小さな工夫ですが、食券を複数使うよりもこの小さなカード1枚の方が管理しやすく良い方法でした。
できるだけ地元産の新鮮でエシカルな素材のビーガン/ベジタリアン食が、複数の配膳業者により、各ロッジで提供されていました。
食器やナイフフォークなどは各自持参のものを使い、ダイニング内や野外でいただきました。なお食事は自分でまかなう (=self-catered) 参加も選べました。
会場となったギルウェル・パークは森に隣接した108エーカーの広さで、主要建物にはソーラーパネルが設置され、ロッジの屋根は植物が植えられたグリーンルーフでした。
私はロッジ宿泊を申し込んでいましたが、部屋は2段ベッドが8人分ある部屋で、私を含む世界各地から参加者8名が滞在していました。参加者はロッジ以外に、4つのキャンプ地でテント宿泊することもできました。どのキャンプ地に滞在するかは夜の騒音の好みで決められていました。例えば朝型の人や家族連れは22:00以降は静かにするキャンプ地に滞在し、夜型の人や賑やかな夜を楽しみたい人は、音楽、ダンス、歌声などで賑わうエンターテインメント会場に最も近い場所に滞在しました。ただし23:00以降は全ての場所で騒音を慎むことになっていました。参加者は滞在期間中、適切な自己管理を行うと同時に、周囲の人々のことも気にかけ、助け合うことが奨励され、またボランティアで様々なヘルプをすることも歓迎されていました。
コンバージェンスには60(70?)か国以上から約500 (600?) 人が参加し、30か国の異なる言語圏からの人々が滞在し、英語が母国語でない人たちも多くいます。そこで英語の母国語話者には、ゆっくりはっきりとわかりやすい表現を選んで話す配慮が求められていました。そしてワークショップや発表の最中、話し手の英語がわかりにくければ、聴衆が両手を上げて下ろすジェスチャーをすれば、”Oh, sorry! ”と言ってゆっくりわかりやすく言ってもらえました。とても良い方法で私もこのジェスチャーを何度かしました。
ギルウェル・パークにはコンバージェンスの期間中、様々な場所が設けられていました。マーケット・スペースでは、エシカルな商品とサービスが販売され、様々なパーマカルチャー・プロジェクトのサポートができ、書籍、クラフト、衣服、食べ物が売られていました。子ども達に対しても様々な配慮がされていました。子ども連れ家族用には、子どもエリア(Kids Area)があり、4歳未満の子どもには専用テントが用意され、親が共に過ごして世話ができました。
4歳~12歳向けには、世界各地の児童教育専門家チームによる活動プログラムがあり、カヤックやアーチェリーといったアクティビティーの時間もありました。ティーンエイジャー向けには”Teen Area”があり、毎日若いパーマカルチャリストが話をし、ゲームやワークショップのスケジュールが作られていました。
”Wellbeing Area”というヘルシーな生活のためのスペースがあり、ハーブティによる治癒の紹介や、自主的なワークショップ、セラピーで、ヨガ、身体運動、歌、マッサージがシェアがされていました。”Heart & Soul Space”は心と精神のためのスペースで、瞑想などが自由にできました。加えて宗教と信仰のためのスペース”Religeon & Faith Space”があり、仏教の部屋、キリスト教の野外チャペル、ユダヤ教礼拝堂、ローマ・カトリック教会があり、モスクも建設中でした。日曜日の午前中には2つのパーマブリッツ活動(permabrits)が予定され、作業に加われば完成したものが自分の参加の記念となり残ります。
コンバージェンスで開催されたワークショップ数は約160です。
通称でワークショップと呼ばれているものの、その内容は発表、ディスカッション、参加型アクテビティ、ツアー、映画観賞などです。それら全てのタイトルと発表者名は、下の参考(5)のリンクで見ることができます。
これらの発表、ワークショップはその内容により以下のテーマごとに分類されています。
- Strategy(方略)
→パーマカルチャー運動についての重要な問いへの答えを話し合う - Stories from around the world(世界のパーマカルチャー)
→世界のパーマカルチャー事例やプロジェクトの報告 - Ecological Practices(エコロジカルな実例や実践)
→パーマカルチャーデザインにおける最近の考え方、技術、取り組み - Social & Personal(社会的なことと、個人的なこと)
→社会と自分内部のパーマカルチャー - Education(教育)
→世界のパーマカルチャー講師より考え方、技術、最良の取り組みを聞く - Research & Theory(調査研究と理論)
→パーマカルチャーの最近の理論と、調査研究方法 - Design & Diploma(デザインとディプロマ)
→デザイン技術と科学について。ギルウェル・パークでの共同デザインプロセス(Collective Design process)も紹介
なお、私が期間中出席した多くのワークショップで、とりわけ心に残ったのがムゴベ・ウォルター・ニカ(Mugove Walter Nyika)さんのジンバブエやマラウィの学校での「食べ物の森作り」の発表でした。最近私が執筆した「土と健康」(日本有機農業研究会)2020年12月号の「パーマカルチャーとは?」という記事でこの発表内容を少し紹介しています。
期間中は”人への配慮と地球環境への配慮(people care, earth care)”をできるだけ考慮する姿勢が主催者側にも参加者側にもあったように感じられました。またその運営システムのデザインも興味深いものでした。コンバージェンス期間中滞在したロッジの、ルームメートの1人でアラスカ州の都市計画の上級研究員をしている女性によれば、IPCは運営方法が素晴らしくてオープンで民主的だそうです。だから彼女は「IPCにはまってしまって」何度も参加してきたそうです。私は帰国後、持ち帰った資料を読み、振り返る中でそれを実感しました。そして2年後に開催されるインドでのIPCにも参加しようと心に決めました。
なおコンバージェンスの期間中、パーマカルチャーの視点から気候変動についての意見表明書が作成され、総会で採択されました。下の参考(6)で原文にアクセスでき、また賛同署名のできるサイトもあります。併せてこの英文の日本語訳をAppendix 2に掲載しているのでクリックしてご覧ください。
加えてコンバージェンスのガイドブックの中に、パーマカルチャーについて書かれた以下の文を見つけました。パーマカルチャーの本質を短く語っているので引用しておきます。
” Permaculture has moved from a response to an agricultural crisis to a multi-faceted response to pressing environmental and social concerns around the world.” (訳:パーマカルチャーは農業の危機への対応から、世界中の環境/社会面の差し迫った懸念への多面的な対応となっている。)
IPCに参加を通じて、これを改めて実感することができました。
2022年1月
Appendix 1
コンファレンスのすべての発表とワークショップの日本語タイトルです。これは世界のパーマカル チャーの多様な展開を知る一助になります。クリックしてご覧ください。
→IPCUK Conference Programmesのタイトル日本語訳
Appendix 2
→パーマカルチャーの視点より気候変動への意見表明、日本語訳
参考
- コンファレンスの基調講演者(Keynote speakers)、 録画も残されているのでメニューから探してみてください。
- コンファレンスの発表資料
- IPCUKのコンファレンスとコンバージェンスのスポンサー名
- IPCUKの前後に英国とヨーロッパ各地で開催されたエッジ・イベント情報
- コンバージェンスのプログラムのタイトルと発表者名
- パーマカルチャーの視点より気候変動への意見表明(Permaculture Climate Change Statement)
以下のp.2~p.3
こちらでは賛同署名可