アースガーデン

訪問・滞在・参加レポート

マルメ市(Malmo stad, Sweden)

スウェーデンへの旅

2015年に北欧と英国を訪問する旅に出ました。合計1ヶ月の旅で、始めの数日間はスウェーデンで過ごしました。旅の主目的は、英国でのパーマカルチャー国際会議出席でしたが、私はヨーロッパのエコシティを訪問したくて、英国に向かう前にスウェーデンに6日間滞在することにしました。ストックホルム市とマルメ市に3日ずつ滞在しました。ストックホルムでは、ハンマルビー(Hammarby Sjostad)に出かけました。かつて工業地帯だった場所に作られた大規模な環境配慮型住宅地区です。現地で街歩きをして魅力的な集合住宅群を見た後、鉄道でスウェーデン南端の環境都市、マルメに向かいました。(ハンマルビーに関しては、日本語情報が多くあるのでこれ以上は書きません。関心のある方は検索しお読みください。)

マルメ市

マルメでは知人の実家に滞在しました。知人はアメリカ在住の若いスウェーデン女性で、リサという名前でした。リサと知り合ったのは、彼女が奨学金を得て、有機物活用の研究調査のため世界何カ国かを訪問した後、日本に来た時でした。京都市内の環境NGOの紹介により、美山町のアースガーデンに滞在してもらいました。南丹市八木町のバイオガスプラントに案内して英語のスライドを見せてもらったり、美山町では美山ふるさと(株)を訪問し堆肥作りの話を聞いたり、知り合いの有機農家や近所の養鶏農家にインタビューに応じてもらったりしました。リサに関心のあることは私にも興味のあることなので、楽しく一緒に過ごせました。そして今回の旅ではマルメ市のリサのご両親のお宅に滞在させていただくことになったのです。

マルメ駅の観光協会でリサのお父さんのオラと待ち合わせをしていました。早めに到着した私は観光協会の人に「マルメの持続可能性に関する情報が欲しいのだけどありますか?」とたずねました。観光協会にはそのような情報はないだろうと思っていたのですが、大きくうなずいて「SUSTAINABLE CITY Malmo」というタイトルの英文冊子を出して渡してくれました。

オラは私をピックアップした後、オーグステンボリや、ウェスタンハーバーに連れて行ってくれました。途中でリサのお母さんのカレンと合流し、カレンが教えている高校の中も見せてもらいました。その後、オーガニックなコミュニティガーデン「キャッスル・ガーデン」に行き、3人でティタイムをしました。とても美しいガーデンでした。夜はお二人の自宅から少し離れたところにあるセカンドハウスに行き、泊めていただきました。

帰国後にSUSTAINABLE CITY Malmo 、Guide Western Harbour、マルメ市のHPなどの英文を読み、日本語でメモをとりました。また旅行前にもマルメ市についての英文情報を収集し、日本語のメモをとっていました。以下はそれらを帰国後の2016年にまとめたものです。加えて、2022年1月に再びマルメ市のHPを閲覧し、一部ですが更新情報を( )内に*印で追加しました。

マルメ市について

マルメ市はスウェーデン第3番目の都市で、デンマークのコペンハーゲンまで鉄道で20分です。人口は、312.994人(2013年)で、うち49%が35歳以下。31%が外国で誕生し、住民のルーツは170カ国に及びます。28年間連続で人口が増加。2013年のマスタープランでは、今後20年間で100.000人の新住民の居住と、50.000の新たな仕事ができるとされています。(*2020年12月31日付けで人口は347,949人に増加)

マルメは古くから造船、工業で栄えた臨海工業都市でしたが、1986年に造船工場が閉鎖し、30,000人が失業し、1991年には巨大自動車工場も閉鎖しました。そして土壌汚染、失業、人口流出により地域が衰退していきました。1994年には建築家で都市計画専門家のイルマール・レーパル(Ilmar Reepalu 社会民主労働党)が市長に就任。2001年にはオアスン(Oresund)大橋が完成し、デンマークのコペンハーゲンとつながりました。2007年にはグリストGrist(アメリカの非営利のオンライン雑誌)により、マルメ市が持続可能性の高い都市の世界第4位に選出されました。エコロジカルで、経済的、社会的にも持続可能で隣接都市のルンド、コペンハーゲンと緊密につながった都市ビジョンを持ち、都市を外に拡大する方法ではなく、すでに存在する都市環境内に新たなルート(=つながり)を設け、人の集まる場所を作り、集約化していく方法がとられてきました。

マルメ市は気候変動対策でも世界のトップランナー都市を目指し、2030年までに市全域のエネルギーを再生可能なものにするとしています。市内に複数のエコタウンが建設され、建設中のものもあり、古い建物の大規模改修もされてます。その例としてウェスタンハーバーとオーグステンボリを後ほど紹介します。

マルメは2012年に自転車推進の街になりました。市内では移動の1/4が自転車でされています。ほぼ490kmの自転車レーンがあり、すべての交通量のうち25%が自転車で、ビジネス関連の移動では40%になります。徒歩、自転車、公共交通機関が優先権を与えられ、公共交通向けの車線と自転車レーンが増やされました。自転車レーンが様々な地域を結びつけ一体化をうながし、人々の往来を活発化させたそうです。また過去5年間で公共交通機関である市バスの利用者が25%以上増加しています。徒歩、自転車、公共交通機関の利用が呼びかけられ、それがたやすいことだと人々に気付いてもらっています。

駐車場は減り、駐車料金は高くなり、車での移動を減少するメカニズムができています。多くの家庭は自動車を保有せず、シェアすることを選んでいます。市内には50のカープール(車の共同使用制度)があり、一部の地域では転入者は無料でカープールの会員になれ、最初の5年間は無料という地域もあります。

マルメはスウェーデン初のフェアトレードシティでもあります。市の調達するものはフェアトレードを選ぶという政治的なコンセンサスができています。市内で購入されるコーヒーのうちフェアトレードのものは2006年に0.5%でしたが、2012年には60%になりました。また市はエシカルな消費を促進する義務も負っています。コンサート、フェスティバル、文化・スポーツ行事では、オーガニックかエシカルなラベルのものを売っている食物店も多く、ベジタリアン食の試食も奨励されます。
学校給食は無料で、野菜たっぷりの食事が子ども達に提供されています。SUSTAINABLE CITY malmoには緑、黄色、赤の3色で縁取られた給食用の皿の写真が掲載されています。

緑の部分には野菜、黄色の部分にはポテト、ライス、パスタ、赤のところにはメインディッシュである肉、魚、卵が取り分けられますが、菜食の代替食を選ぶこともできます。また週に一度はすべて菜食のメニューが登場します。マルメでは毎日40.000のランチが作られますが、どのメニューが気に入ってどのメニューがそうでないか、常に生徒たちからの聞き取りがなされ、フェイスブックの質問にコメントを書いてもらう方法もとられています。調理は学校の厨房で調理されたものが提供されています。新鮮なできればオーガニックな食材を使い、加工食品ではなく初めから調理され、環境や気候変動への配慮より不要な食材輸送を避け、残飯を減らす努力もされています。2012年では55%がオーガニック食材でしたが、市は目標として2020年までに市が調達する食材を100%オーガニックにするという目標を掲げています。(*2021年10月12日更新のマルメ市HPによれば、市が提供している食事の70%がオーガニックだそうです。)

オーグステンボリ(Augustenborg)

私がマルメ市でぜひとも行きたかったところのひとつが、オーグステンボリ地区でした。ここには1950年代に建てられた団地があり、当初はにぎわっていたものの、1970年には荒廃し、経済面でも困難な貧しい地域となりました。住民たちの多くが転出し、団地の空洞化が進みました。洪水の季節には排水方法の不備により水があふれ、不適切な排水処理による健康問題も引き起こしていました。
1998年にオーグステンボリ地区は広範なエコタウン作りの地域再生プロジェクトに着手し、パブリックとプライベイトの両セクターと共に地域住民が参加し、環境面、社会、経済面で持続可能な街に生まれ変わる計画がスタートしました。ゴミ収集、再利用、リサイクルのための13の施設と、コンポスト作りの場所があちこちにでき、地域の廃棄物の90%がリサイクルされる目標が作られました(すでに70%を達成)。住民の発案により太陽熱温水システムと、太陽光パネルも設置され、地中ヒートポンプも使われています。政府の地域投資計画による支援と、マルメ市内の複数のパートナーとMKBハウジングによる出資があり、追加としてEUの資金も提供されました。その間、多くのワークショップや、デザインの会合、話し合いがなされました。マルメ市で初めてのカープールもこの地域で、住民の要望により生まれました。
オーグステンボリには、居住エリア、産業エリアがあり、学校ができています。植物で緑化された屋根が産業エリアの9.000m²をカバーし、スカンジナビア最大の「緑の屋根」となりました。加えてMKBハウジングが2.100m²の緑の屋根を作りました。雨水排水は6kmにわたる開放型水路(開渠)を通って居住エリアの複数の池に入ります。地面や道路を流れる雨水の90%が開放型水路に入り、うち70%が地域で活用されることを目ざしています。これで以前にあった洪水問題が解決し、美しい環境と生物多様性が生まれました。住民、生徒、ここで働く人々が屋外の環境デザインに参加し、動植物の生息地を作りながら、アメニティを高めました。多年草の草花、自生種の樹木、果樹や湿地があり、コウモリなどの鳥の巣箱が居住地内に設けられています。

オーグステンボリは2010年にワールドハビタ賞を受賞し、魅力的な多文化共生地域となり、かつて問題となっていた洪水や、非効率的なエネルギー使用は大幅に減少しました。参加方式で古い団地を再生した事例として、マルメ市だけでなく世界中で注目されています。
このオーグステンボリに実際に行ってみたら、団地の建物は美しく、敷地内にはコンポスト容器が設置されていました。庭は起伏があり、ビオトープのような池には水鳥がいました。日本の団地やマンションとは明らかに異なる外観で、自分が長年探し求めていた集合住宅にここで出会えた、と感じました。植物がたくさん茂り、心が落ち着き、長時間を過ごしたくなる場所でした。

ウェスタンハーバー(Vastra Hamnen)

マルメ市は2030年までに市全域のエネルギーを再生可能なものにするとしていますが、その先駆となっている場所がウェスタンハーバーです。Bo01地区(=2001年にヨーロッパ住宅フェアが開催された場所)は、持続可能な都市開発の国家モデルとされ、ほとんどの住居はすでに地元の再生可能エネルギーでまかわれているそうです。ソーラーパネル、ソーラー温水器、ヒートポンプが使われています。ヒートポンプは、地下の帯水層の中の水よりエネルギーを得る方法で、夏の温水を建物内の暖房に使い、冬の水を夏の冷房に使います。またスウェーデン最大の風力発電の電力も提供されています。
ここには、HSBターニングトルソ(Turning Torso)という高層ビルがあります。54階建で高さは190m。下の2つの階はオフィスで、最上階の2つの階は会議場、それ以外は住居です。

高級高層マンションで、住民はintra netで温水、冷水、熱、電気の利用をチェックし、節約方法がわかるようになっています。生ゴミはキッチンの流しの中で粉砕され、直結する生ゴミ専用タンクに集められます。そこでバイオガスとなり電気や熱に変わります。この仕組みがうまく行ったので、他の複数の集合住居でも使われるようになりました。バイオガスは市バスに使われています。2015年までは天然ガスとバイオガスの混合でしたが、2015年以降はスコネ交通の全ての市バスはバイオガスで走っているそうです。バイオガス発生の際に出る液肥は、有機肥料として利用されます。

ゴミが吸引により住宅地外に運ばれるシステムもあります。大型の収集トラックが住宅地の中に入ることなくゴミの収集がされます。多くの異なる建築様式の住宅があり、外観からはそのエコロジカルなデザインがわからないものの、多くが省エネの最新技術を備えています。排気熱が再利用されて給気を温めている住宅もあります。地区内にある単身者住宅では電気と暖房は平均の1/2の消費量とのことです。

雨水が開放型水路を流れ、植栽と合わせてアメニティ空間を創出しています。湿地植物の生育する池が作られ、住民にも評判が良い美しい都市景観を見られます。様々な建物があるのですが、その仕組みなどは外観だけではわからず、私もそこまで詳しくは把握できていません。

この地区を訪問する際は、GUIDE Western Harbourを参照されることをお勧めします。

良いと思ったことを、野心的な目標として大胆に掲げ実現していく…そんなマルメ市の姿がとても印象的でした。滞在期間中は、希望した場所に連れていってもらい、何かと親切にしていただき、オラとカレンにはとても感謝しています。滞在期間中に、鉄道を利用してひとりでベクショーやデンマークのエコビレッジ訪問もしました。毎日動き回ってばかりでしたが、最後の日は持参した日本からの食材で私が日本食を作り、ご一緒に楽しむ時間がとれてよかったです。

2016年(更新情報の追加 2022年)

参考:

更新情報