アースガーデン

訪問・滞在・参加レポート

メリオドーラ(Melliodora, Hepburn Permaculture Gardens – David Holmgren)

1. はじめに

2010年9月にオーストラリアの複数のパーマカルチャー・サイトを訪問するひとり旅に出ました。その訪問先のひとつがメリオドーラ(Melliodora)で、パーマカルチャー協同創始者のデビッド・ホルムグレン(David Holmgren)とパートナーのスー・デネット(Su Dennett)のお宅です。世界で最も有名なパーマカルチャーのデモンストレーション・サイトと言えます。場所はビクトリア州の温泉保養地の小さな町、ヘップバーンで、メルボルン空港から約120km。私は空港よりレンタカーで行きました。近くの町のマウント・マセドン(Mt. Macedon)に宿をとり、2010年9月5日午前中のメリオドーラのハウスツアーと、午後のガーデンツアーに参加しました。今から13年前のことです。

上記ツアーに参加し帰国した後、そのレポートを日本語で書いておきたい、という思いがずっとありました。にもかかわらず、いつしか13年の年月が経過し、ツアー内容の記憶も薄れていきました。そんな中、ebook “Melliodora” Hepburn Permaculture Gardens (→参考資料1)を参考にすれば、正確なレポートが書けそうに思えました。1985~2005年の20年間の克明な記録によるケーススタディ(事例研究)です。本稿はツアー参加体験に加えて、このebookを参照して執筆されたものです。

2. 土地の選定

オーストラリアでパーマカルチャーに関心が集まった1970年代、デモンストレーションの場所が無かったことが、パーマカルチャーの広がりと応用事例ができることへの妨げになっていたのではないか、とデビッドは確信していました。以下の条件を備えた場所が欠落していたのです。

① パーマカルチャーにアイディアを得て、設計原則を意識的に用いてデザインされた場所。
② 詳細に記録され、何らかの形で一般の人々が訪問できる場所。

そこで当時メルボルンに住んでいたデビッドとスーは、デイルズフォード (Daylesford)やヘップバーン(Hepburn)地域で、自らの居住地をパーマカルチャーデザイン事例として作り、転居することを決めました。涼しくて雨が多く、コスモポリタン的な場所で、地域内で仕事ができそうだったからです。

2人は以下の基準に合う土地を探しました。学校や町の施設へのアクセスが良く、町営水道、下水道、電気の利用が可能なこと、家族の食材のほとんどが自給でき、多額の資本投下や大きな開発をしなくて済む広さであること、日当たりがよく今後も日影になるリスクが最小限であること、日照側(=北側)が斜面で、植物が太陽を最大限吸収できること、道路予定地や谷間など未開発の土地の背後や側であること、ため池や湧き水など独自の取水ができること、排水の良い深めの表土があり、火災の危険度は標準並みであり、できれば火山性土壌であること、そして町のインフラサービスへの接続費用が安いことなどが条件でした。

ヘップバーンは、ビクトリア州中部の低山高地帯からやや雨の多い内陸傾斜地への移行帯(ecotone)にあたり、両方の地帯のプラス面マイナス面を備えた接縁と言えます。町、農村、自然の3つが接する地域でもあります。1985年にデビッドとスーはここに約1ヘクタール(2区画分)の土地を購入しました。その土地は上に述べた2人の要求基準をほぼ満たしていましたが、ひとつだけ妥協した部分がありました。向きが北〈=日照側)でなく西向きだったのです。この点が冷涼な土地での理想的なパーマカルチャー事例にはなれない、という教訓になったそうです。緑が多い郊外(suburbia)で、幼稚園、小学校は徒歩圏内。1km以内に雑貨店、郵便局、銀行、ホテル、温泉、浴場があるそうです。また4km離れたデイルズフォードで、ほとんどの用を足すことができ、50km離れたところには都市バララト(Ballarat)があります。

1970年代にデビッドは、ビル・モリソンと協同で、パーマカルチャー設計原則を作り上げたあと、この土地でパーマカルチャー事例を自ら作り、ケーススタディとしてその検証を続けてきました。パーマカルチャーを世界中に広めるために動きまわり、脚光をあびたビル・モリソンと対象的な取り組みでした。その拠点となったメリオドーラは、冷涼な土地での優れた居住地デザイン事例で、農村、広めの郊外、都市型の3通りのデザインに参考になる情報を提供しています。都市と農村の接縁部にあたる郊外で、下水道などの都市インフラも整備されています。

3. ガーデンと住居の設計

メリオドーラの敷地は3方を道路と道路の予備地(road reserve)に囲まれています。敷地内には家族の居住スペース、執筆やデザインコンサルタント業のオフィス、書籍ショップ、講座やワークショップの場所/ガレージがあり、食糧生産用ガーデン(果樹園、菜園)と、家畜・家禽類の小屋とコンポストトイレのある納屋があります。写真1 はebook ’Melloidora’ Hepburn Permaculture Gardens 表紙です。この航空写真を見ると、敷地の全体図が把握できます。

住居の設計は土地購入以前から行われていました。家のデザイン構想が、土地の選択とその中にどう位置づけるかに役立ったそうです。施主、設計者、 施工者を兼ねていたので、施工を通じてさらにデザイン修正ができました。以下は家の設計基準です。(ebook p.23)

①大部分に暖気が行き渡るパッシブソーラーデザイン。
②森林火災や嵐に持ちこたえる設計方法
③エネルギーコスト削減の為、自然または回収された素材を使用。健康住宅で、地元の経済にプラスになること。
④家族の住居、オフィス、ワークショップの場所を兼ねた車庫、温室、全体で220㎡に収めた多目的な建物
⑤配管場所はコスト減のため集中させてまとめる。
⑥室内スペースの自然な延長としての戸外生活、作業、食糧生産の場を作る。
⑦視覚的に目立ちそうな場所でも最小限の外観的影響になるように。
⑧合計AUD 70.000を超えないこと。(1985年のAUDで)

4. 建物

4-1. 建材

建材はトータルエネルギーコストが低く、工業的加工は最低限で、自然素材や中古のもの、そして地域で生産されたものが重視されました。加えて価格が低く、施工時、居住時、火災時に有毒物質、危険物質の排出レベルが低いことも考慮されました。ガラスはエネルギーを多く消費してできる工業製品という問題点がありますが、パッシブソーラーハウスには不可欠でした。

北アメリカ西岸の古い森からの木材や、熱帯雨林からの広葉樹は環境面で問題がありました。そこで近郊のマウント・マセドンで1983年に森林火災が発生した時に、焼け残った木を伐採加工した木材が使われました。以前に購入していたものだそうです。

土地の購入や家をデザインする以前から、泥レンガ(mud brick)を用いることがすでに決められ、壁と床の施工に必要な5000個の泥レンガを現場で作ることも検討されたようですが、運搬費や積み下ろし費用込で1個1ドルで入手できるものを見つけました。購入し、モルタルの土は地元で調達されました。泥レンガは壁や床に使われ高い蓄熱効果が確認できましたが、床は目地にひびが入りやすく、定期的なメンテナンスが必要でした。

家全体がソーラーデザインの特徴を備えています。東西に長い家屋で、北側(日照側)の90%はガラス張りです。写真の向かって左側が温室で、その右側はブドウの木に覆われたテラスです。(訪問時期が早春のため、ブドウはまだ落葉状態で目立ちません。)

温室の向こう側には、東(向かって左)からキッチン、ダイニング、リビングがあり、その西にオフィス、そして西の端はガレージとワークショップの場所があります。南側(日陰側)には寝室3つ、洗濯室、浴室があります。

4-2. 温室

LDKの北側(日照側)に温室があり、内と外をつなげる接縁として多くの役割があります。

冷涼な気候帯にある住居のパーマカルチャー的シンボルとも言われています。以下の役割を果たしています。(ebook p.27)

  1. 夏野菜の育苗に理想的な場所で、この温室がなければ夏野菜はごく少量しか収穫できない。
    日差しが大きな窓から差し込み、日常のメンテナンスがしやすく、潅水装置で水が散布でき、 ベンチの高さの植え床と作業スペースがあり、苗つくりに適したデザイン。
  2. 冬〜春の端境期に植床よりサラダ野菜が十分に供給される。
  3. 春〜夏はトマト、インゲン、バジルが育ち、強い日差しを遮ってくれる。
  4. 限られた亜熱帯多年生作物が他の場所を邪魔をせずに育てられる。

水で洗える床があり、水やりが効率的にでき、冬はとりわけ快適な場所になるそうです。
土間でもあり、気密性の高い場所です。キッチンに入る前に温室でコートや長靴を脱ぎ、ガーデンでの収穫コンテナも置かれています。居住空間の一部としても使えて、寒い晴れた日には居心地の良いサンルームとなり、朝食の場所にもなります。子どもが小さかった頃は遊び場にもなっていたし、キッチンから目が届くので安心でした。温室とLDKとの間のドアを開けると、温かい空気が室内に入ってきて、家の暖房にとても重要な役割を果たしています。床のテラコッタタイルや壁の泥レンガが蓄熱体になっています。

4-3. LDK

キッチンには中古の調理用薪ストーブがあります。パンは100% このストーブで焼かれ、その他の料理もこれで作られています。その上には棚があり、とても役立っています。この棚でパン生地を温めたり、ヨーグルト作り、スプラウトの発芽、トマト、ピーマン、ナスのタネを冬の終わりに発芽させたり、ハーブの乾燥などができます。お湯もこのストーブで沸かされ、太陽熱温水器設置後もこのストーブよりの給湯がされています。

キッチンの東側は薪置場となっています。伐採された木は2年乾燥され納屋に薪として貯蔵され、こちらに運ばれてすぐ使えるように置かれています。

家の中は夏でもそれほど暑くならず、薪ストーブで調理ができます。でも夏は熱い料理をあまり食べたくないし.太陽熱温水器からもお湯がたくさん得られるので、薪ストーブに火をいれる必要がさほどありません。そこで薪の節約を兼ねてガスコンロが、飲み物や軽食調理に少し使用されます。カウンターの調理台の下には小さな冷蔵庫があります。後ほど紹介する低温食品貯蔵棚と調理と食事の習慣により、このサイズの冷蔵庫で間に合うとのことです。引き出しには食品がまとめて保管されています。

キッチンには対流式の低温食品棚(convective cool cupboard)があります。幅1mでワイヤーバスケットが出し入れできます。まとまった分量の果物、野菜、飲み物、小麦粉類、チーズ、卵などが入れられています。温度は冬は5℃、夏の終わりは18℃と報告されています。上の方は温度が高くなるものの、下と同じくらい優れた通気性があるそうです。上部はカボチャなどあまり低温を必要としないものの長期保存に使い、利用の際は梯子が使われます。

この食品貯蔵棚の底部には大きな開口部があり、上部にも通気筒(ダクト)があります。ドアはブラックウッドの合板にメラミン塗装がされ、合板接着剤の化学物質放出が抑制され、加えて掃除も楽だそうです。この棚の中を冷えた空気が下から上に流れて、通気筒から抜けていきます。さらに詳しく説明すると、外の空気が家の日陰側〈=南側)に設置された雨水タンクの下を通り抜けて冷やされ、床下に入ります。そして貯蔵棚の底部の開口部よりその冷たい空気が棚の中に入り、縦の空間を上がり上部の通気筒(ダクト)から外に出ていきます。この縦空間は5.5mあり、上の通気筒は直径30cm。夏にさらに温度を下げるには食品の出し入れ口にぬれたスクリーンを垂らしておいたり、土管を床下地面の中に使えば14℃まで下げられるのですが、大きな岩が床下にあるのでとても難しいそうです。

この低温貯蔵棚の詳しい追加情報が、ebookのp.105~p.107に書かれています。本稿では省略しますが、シェードハウスで冷却した空気を送り込む方法も紹介されています。ご自身でこのような棚を作りたい方は、ebookを購入しご参照ください。

ダイニングの泥レンガの壁の前には暖房用ストーブがあり、その側には低い階段があります。スレートで覆われた泥レンガの階段です。

階段の上は廊下でその床下も食品貯蔵庫として使われ、保存食品の瓶詰めやビールが入れられています。廊下には家具が置かれていないので、冬場の太陽熱が最大限蓄熱できます。廊下の向こう(=家屋の南側)の3つの寝室、浴室、洗濯室は、階段を上がった少し高い場所なので、北側(日照側)からの暖気が入りやすくなっています。北側の床材、階段や東西に伸びる室内の壁も太陽熱の蓄熱体となっています。屋根の下に高窓があり、通風や自然光の照明が室内に入ります。

4-4. ソーラーデザインと屋根断熱材

ここに住み始めて数年後、家のデザインの殆どはうまくいっていることがわかったそうです。一方で失敗も報告されています。ソーラーデザインは成功しているのに、暖房効果が当初より低下してきたと感じ始めたそうです。その原因は屋根断熱にあったことがわかりました。素材として不本意ながら使ったファイバーグラスは、当時の建築基準の分量では、十分な効果が発揮されなかったし、非標準的な屋根用に小さく切ったことや、ネズミが入り込んで隙間ができ、断熱性能のさらなる低下を招きました。(5%の隙間で50%の熱が失われるとのこと)ファイバーグラスはアスベストほどではないものの同様な健康被害を引き起こす懸念もありました。そこで古い電話帳からのリサイクル素材のセルロースと取り替えられました。壁と天井の一部にはポリエステルの断熱材も使用されました。

5. ガーデン

5-1. ゾーン

住居の北側(日照側)には生産性の高い家庭菜園があり、その向こうに家畜小屋と納屋があります。以上がゾーン1です。住居の西側の果樹園斜面の下までがゾーン2、そこから2つの溜池を超えた敷地境界線までがゾーン3です。その外側はゾーン4で共有地として地元の人々と共に植樹活動が行われ、ヤギにより植生が適切に維持管理されています。写真1でもある程度は確認できますが、動画 World Famous Permaculture Property Tour(→参考資料2)にわかりやすく示されています。

5-2. 果樹園

余剰農産物が販売されていますが、特に果樹が重視されています。住居の西側斜面の果樹園は、北、中、南の3ブロックに分かれ、各ブロックには、それぞれ点滴灌水システムとマイクロ・スプレー(霧状の散布スプレー)が張り巡らされています。果樹園には果樹、ナッツの木が等高線沿いに6-7m間隔で植えられています。

樹間植物としてマメ科灌木が植えられ、保護樹(nurse/pioneer tree)の役割を果たしています。樹下植物(underplants)も植えられています。これらは少なくても果樹生育の初期は維持され、一般の果樹園とは異なるパーマカルチャデザインらしい景観が創出され、ヤギの飼料にもなっています。

北ブロックは栗、クルミ、ヘーゼルといった大木に育つナッツが中心です。樹間植物(intercrops)や樹下植物(underplanting)は収穫の妨げになるので、ここにはありません。春の遅霜が斜面の下方では深刻な問題となっています。中ブロックには様々な果樹が植えられています。1992年に樹間に2列の保護樹ベルトができてから風の影響が少なくなりました。南ブロックには主に昔からある種類のリンゴと、ナッツが植えられています。樹間植物は虫を捕食する鳥やハチを引き寄せ、隣の木から害虫や病原菌のバリアとなり、ヤギの飼料となり、マルチにもなり、放し飼いされている家禽類に高タンパクのタネを提供してくれます。

多くのパーマカルチャー事例は常緑植物が繁茂する雨林がモデルとして参考にされますが、デビッドは、それに関して「雨林モデルは雨が多い熱帯や亜熱帯ではとてもうまくいくが、冷涼な気候帯では、太陽光線の不足、水分の奪い合い、菌性の病気が、ほとんどが落葉樹である果樹の生産性を低くする。伝統的なヨーロッパの果樹園を正しく理解すれば、そちらがこの地域により適したモデルとなる。」(ebook p.10)と述べています。

6. 水のシステム (町営水道、雨水、溜池、井戸)

ヘップバーンは冷涼な地域なので、殆んどの果樹やナッツを温かい季節に最大限生育させるためは、灌水が必要でした。水のシステム作りにはパーマカルチャーのデザイン原則が適用されました。
デビッドは、以下の原則を挙げています。(ebook p.43)

①まずは、地下水や帯水層の汲み上げよりも、あふれ出た水の活用を優先する。
②町営水道の利用を減らし、水の自給レベルを上げる。
③ポンプによる組み上げよりも、まずは重力の活用。無理な場合は高所にポンプで汲み上げて貯水しておく。(機械の故障に備えて)
④バックアップを確保。複数の異なった方法による灌水。
⑤木や多年草には低水圧での点滴や、マイクロ・スプレーが好ましい。
⑥活用頻度が高い一年草の菜園(intensive annual garden)は、人間が日毎の観察と判断に基づき、手動で調節できる水やりが望ましい。

町営水道は、ガーデンの流しと2つの水栓(高い水圧)と、家の中と、温室で利用されています。加えて3600 リットルの雨水タンク(ebook p.15)が屋根の一部から雨水を集め、キッチンに3つある水栓のひとつから出てきます。煙突のある屋根部分はクレオソート汚染があるので雨水の取水が避けられています。屋根の2/3からの雨水はパイプで、メインの溜池にも入れられています。

敷地内には冬に大量の水が果樹園斜面の下の谷筋に入ってきます。一部が都市化された地域なので水量がかなり多く、敷地の谷筋が水浸しになるので溜池向きの場所でした。溜池は2つ作られています。写真1で見ていただけます。

大きい方の溜池は、容量1メガリットル(当初0.8メガリットル)でメインの溜池と呼ばれ、ポンプで組み上げられ、地中のパイプを通って、斜面上の住宅の側にある42,000リットルのコンクリートのタンクに入ります。(このタンクにはトレリスが張りめぐらされ、シーズン中はブドウ、ジャスミン、つるバラそなどの植物で覆われます。)この溜池の目的は水を高所のタンクに組み上げて、重力で果樹園に給水することと、万一の火災の時の消火用です。加えて溜池は水耕栽培や魚の水産養殖にも使われ、レクリエーションや美しい景観づくりにも役立っています。水中には木の切り株がいくつか沈められていて、魚が隠れて鳥(鵜)から身を守ることができます。

実際この溜池作りには多くの問題が発生したそうです。またその後のメンテナンスで直面した様々なことも報告されています。例えばボウフラが大発生してポンプのフィルターがつまって動かなくなり、その理由はガチョウが入り込んでボウフラを餌にするオタマジャクシを食べてしまったから、とのこと。または溜池の壁の粘土の圧縮が不十分で多量のヤビーという魚が、溜池の壁に穴を開けないようにベントナイト(粘土の一種)を使ったことなどです。

小さな溜池は果樹園のガチョウが利用できるのでガチョウ池とも呼ばれ、容量はほぼ0.3メガリットルです。1987年に造成され、半水生植物が長期間育てられる場所です。乾季にメインの溜池の水がなくなった時の予備にもなっています。

井戸があり、1992年にここに中古品の風車が設置され、溜池のバックアップになりました。そこそこの風が吹けば一日5000リットルが組み上げられます。しかし乾季には井戸水の量が少なく、一度汲み上げると次に汲めるまで2週間かかるそうです。

7. 動物システム

1995年にミルク用ヤギを飼い始め、1996年にヤギ小屋と搾乳場所が作られました。

たいていは紐でつながれて、果樹園や隣接する道路予備地で草を食べていました。2頭のヤギに適した分量の剪定枝も収穫できていました。タガサステ、キャトキンワトル、ヤナギ、チェリープラムなどです。中でもマメ科のタガサステはとても重要な飼料でしたが、こればかり食べていた子ヤギが死に、それ以降は他の種類のエサもやるようにしたそうです。ヤギは時期によって2頭〜4頭います。ヤギの行動を制御するために広範な電気テープの柵が張られていました。ヤギの餌となる剪定枝は毎年2t〜4t収穫でき、残った枝をストーブの火付け用に使って、余れば秋分と冬至の焚き火に使われました。

2頭のヤギからのミルクは1日2リットルで、多くはないものの適量でした。近所の人や来客が驚くほど、ヤギ独特の臭いのない甘いミルクだそうです。飼育環境や餌にもよりますが、先天的な要因もあるらしいです。ヤギには草や剪定枝の飼料に加えて、必要に応じて少量の穀物殻や、ヌカ、昆布、ミネラル、アップルサイダーがサプリや補助食として与えられていました。落下果樹とりわけ落下リンゴは夏の終わりに重要でした。

ニワトリも飼われていました。小屋の隣にはワラが敷かれた20㎡のディープ・リター・ヤード(deep litter yard)と呼ばれるスペースがあり、鶏糞堆肥が作られていました 。


ニワトリの卵は家族で消費されたり、交換や販売用にもなりました、適切な飼育数維持のため時々まびかれて、食卓にも上っています。果樹園で放し飼いされ、草やタネ、落下果樹、虫などを食べながら、鶏糞を撒いてくれます。1994年より電気ネットが使われ、季節に応じた長期的な放し飼いのローテーション計画ができたそうです。

リンゴや、マメ科樹間植物の周囲には電柵が設置され、様々な形の家畜放牧スペースができていました。アヒルが飼われた時期もありますが、キツネにやられました。1999年より6〜12羽のガチョウがヤギの草刈りの手伝いをし、人間の草刈り作業が随分減ったそうです。リンゴやナシの落下果樹はガチョウの豊富な補助食で、芯食い虫のヒメハマキガの幼虫を抑制してくれました。ガチョウの使用は成功したものの、食べて欲しくない貴重なアーティチョークをガチョウに食べられてたこともあったそうです。ウサギやモルモットを移動式ケージに入れて芝刈りに使っていた時期もありました。

いくつかの問題があったものの、動物の活用は成功していると報告されています。木や草地のバイオマスを糞にして土に返し、機械や肥料に過度に依存することなく、果物やナッツが収穫できるからです。ニワトリ小屋、ヤギ小屋、ガチョウの居場所からの糞は、ゾーン1の家庭菜園でも使われ、高い生産性が維持されています。ただしニワトリ、ガチョウ、ヤギを電気テープ、電気ネット、つなぎヒモを用いて活用するのはかなりややこしいとのことです。

8. 終わりに

2010年9月(早春)の私のツアー参加体験を、13年後に執筆できたのは1985年〜2005年の20年間にわたる克明な記録であるebookがあったからです。ここまで詳しく記録され、検証されたパーマカルチャー・デザイン事例を私は他に知りません。成功したことと併せて、失敗も率直に書かれ、貴重な教訓として残されています。

本稿で紹介できたのは、全体のごく一部に過ぎません。パーマカルチャーデザインに関心がある方、とりわけご自身で居住地をデザインされる方は、ebookを購入され、関心のある箇所をお読みになることをおすすめします。イラストやカラー写真が多く使われ、わかりやすい記録です。ただ冷涼な地域でのデザイン事例である点に留意しておく必要があります。加えて同じ冷涼な気候帯でも、冬に日照が少ない場所では適切ではないかもしれないデザインもあります。(ebookのp.7, p.8, p.108の気候に関する情報が参考になります。)そのような限定性があるものの、一方で気候帯を問わず役立つ情報も多く含まれ、信頼性の高い貴重な記録だと思います。

最後にすでに5-1で紹介した動画(参考資料2)を、再度お勧めしておきます。デビッドとスーの説明を聞きながら、メリオドーラのプチツアーが体験でき、美しいガーデンの様子がわかる11分半の動画です。英語の説明は、英語字幕で読むことができます。
動画では敷地内に当初の住居に加えて、さらに2棟の家(日本の茶室のような小さな家と、コテージと呼ばれる住居)が建てられていることも伝えられています。

2023年 植月 千砂

参考資料

1. ebook Version1.0
“Melliodora” Hepburn Permaculture Gardens — A Case Study in Cool Climate Permaculture 1985-2005, David Holmgren 
https://store.holmgren.com.au/product/melliodora/

2. 動画
World Famous Permaculture Property Tour— David Holmgren and Su Dennett’s Melliodora
https://holmgren.com.au/melliodora/property/

ツアー情報
https://holmgren.com.au/melliodora/permaculture-tours/#upcoming-tours

公式サイト https://holmgren.com.au/